こたつむり

パプリカのこたつむりのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.2
筒井康隆氏の天才的言語感覚を映像化した比類なき傑作。

素晴らしい作品でした。
筒井康隆氏の難解な世界観を映像化するのは、困難極まる挑戦だったと思いますが…硬質ながらも酩酊した感の強い筆致を見事なまでに再現していました。特に“小さな大名行列”は、筒井康隆氏のファンに向けた最良のサービス。思わず口角が上がりましたよ(欲を言えばキチガイの文房具も見たかった)。

しかも、原作は。
インターネットや携帯電話が一般的ではない時代(1993年…当時は携帯電話よりもポケベルが主流でしたなあ)に書かれた小説なのですが、上手くアレンジしていましたね。

まあ、でも、正直なところ。
原作を読んだのはずいぶん昔なので…細かい部分は完全に忘れていました。だから、どの程度再現されているのか…てんで分かりません。でも、それが逆に良かったのでしょう。原作への思い入れが強ければ強いほど「ナンダカチガウ」感が強くなって否定的になりますからね。

だけど、原作未読の場合だと。
序盤から専門用語が多くて混乱しそうですね。しかも、“専門用語は枝葉末節であり、理解する必要が無い”ことに気付いたとしても、現実と夢の曖昧な境界線を描いた物語ですから、説明不足の設定も含めて、躓きやすいとは思います。

そういう意味では人を選ぶ作品。
…なのですが、それは筒井康隆氏の原作も同じですからね。『時をかける少女』や『七瀬ふたたび』と違って、エンタテイメントでありながらも、“実験小説”の技法を取り入れていますので、やはり難解なのです。

それでも、本作をきっかけに。
筒井康隆氏に興味を抱きましたら…その時は是非とも『俗物図鑑』と『虚構船団』を全力でお薦めします。前者は“悪意”を煮詰めた毒素が満載の長編小説。後者は壮大なSFの皮をかぶった実験小説。どちらもコッテリとした氏の魅力を味わうことが出来ますよ。うひひ。

まあ、そんなわけで。
映像化困難な原作を見事なまでにエンタテイメントに昇華した本作。物語の中に上手く入り込むことが出来れば、一風変わった“毒素”に衝撃を受け、脳味噌の許容量がググンと広がるかもしれません。機会があれば是非とも。

それにしても。
《時田浩作》の声を演じているのは古谷徹さんなのですが、あの声質で硬い言葉(専門用語)を使われると、そのうち「νガンダムは伊達じゃない!」とか言いそうな気がして…。