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リトルショップ・オブ・ホラーズのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

4.5
ディズニー黄金期の原点ここにあり!ミュージカル史上最も過小評価されていると言われるこのミュージカルを、その所以を探るべく舞台版・劇場版・ディレクターズカット版を徹底考察しながらひも解いてみよう😊

1960年の同名のコメディホラーB級映画が、当時駆け出しのハワード・アッシュマン&アラン・メンケンにより発掘され、楽しくもちょっと切ない素敵なミュージカル(1982)としてオフ・ブロードウェイに登場!同作のヒットを受け映画化&本作公開時には二人はディズニーに採用され「リトル・マーメイド」を製作、その後のこのコンビとディズニーの栄光は皆さまご存知の通り。

本作、もうすでにディズニー節が炸裂。最もわかりやすいのは、本作でオードリーが夢の生活を思い浮かべながら歌うSomewhere That's Greenが「リトル・マーメイド」のPart of Your Worldと全く同じ和声展開をとり瓜二つなこと。
2曲ぐちゃまぜ歌唱動画 0:45~
https://youtu.be/F6XZhihxmzw
それもそのはず、リトル・マーメイドの製作中のディズニースタジオにおいてPart of Your WorldはこのSomewhere That's Greenに引っ掛けて子供向けアニメとしては有るまじきトンデモ下ネタな曲名で呼ばれていたそう... 映像的にも後のディズニー作品への影響が強く見て取れますね。

人間でも動物でもないヤツが歌い踊るのは「美女と野獣」へ、親のいない貧しい青年が謎の生き物の助けで成功者になり意中の女性を射止めようとする姿は「アラジン」へと繋がっていきます(Feed Meの歌詞で"ジーニー"に言及あり!)。最も有名な楽曲Suddenly Seymourは「アラジン」のWhole New Worldともよく似ているし、ハワード・アッシュマン作品ではありませんが、冒頭近くのSkid Rowのシーンは「ニュージーズ」を彷彿とさせます。

ミュージカルの映画化の御多分に漏れず、楽曲はClosed for RenovationやMushnik and Son(RENTのTango: Maureenの曲・振り付けは間違いなくこの曲が元ネタ)、Call Back in the Morningなど多数カットされています。が、中でもThe Meek Shall Inheritは撮影がされた後に残念ながらカット。これはいい場面なので残して欲しかった...
カットされたシーンはこちら 0:45~
https://youtu.be/3-IrrrDbOzs

というわけでこのミュージカル、個人的には絶対5本の指には入る大好きで素晴らしいミュージカルなのですが過小評価されてしまう要因は...

①大きな劇場に向かない
トニー賞はブロードウェイ作品しか対象にならず、原則的にその劇場は500席以上になるので、小さな店で植物を育てるスケールの小さい設定と登場人物の少なさで小劇場向きの本作はなかなか厳しい。実際2003年のブロードウェイ版は失敗に終わり、2019年のオフ・ブロードウェイの小劇場でのリバイバルは大成功を収め現在も上演中です。昨年末にシーモア役がBook of Mormonで主演経験のマット・ドイルに交代、同作の演技の影響を思いっきり引きずってお茶目で可愛らしい演技とダンスのシーモアが楽しめます。

②映画化の失敗?
ブロードウェイ・ミュージカルが映画化されるのには、人気の演目がロングランで徐々に集客に苦戦し出すタイミングでのテコ入れ・広告宣伝の手段という側面があります。ただ、逆に失敗すれば「な~んだ人気のあるミュージカルって聞いてたから映画で観てみたけどそんなでもないな、こんどNY行くときは他の舞台観よ...」とマイナスの宣伝効果になるリスクもあり、直近ではディア・エヴァン・ハンセンが不評だった映画化の後に無事コロナ明け再演がなされるもあっという間に人気が落ちブロードウェイもウエストエンドもほぼ同時に昨秋で終演した現象が思い起こされます。じゃあ本作の映画化はどこがまずかったんだろう...

ここからは少しだけネタバレあり。
1960年のオリジナル映画、82年の舞台ミュージカル版、86年のミュージカル映画版となんと全て結末が異なります。皆様レビューで書かれているように、本作は舞台ミュージカル版同様のバッドエンドで製作されるもテスト上映で評判が悪くハッピーエンドで撮影し直して劇場版として公開。ディレクターズ・カットでは元々公開される予定だった結末になっているのですが、このディレクターズ・カット版と舞台版を比べるとどうして評判が悪かったのかがよくわかります。

元々用意されていた終盤のシーンはほぼ舞台版と同じなのですが、映画でしかできない派手な演出にしたかったのかシーモアが植物に襲われて食べられるシーンとアメリカ全体に植物が広がりディストピアを化すシーンとが非常に長くしつこく、あっさりと食べられてすぐにラストの楽曲に移り食べられたメンバーも含め勢ぞろいで楽しく歌いカーテン・コールに流れ込む舞台版と比較して同じ結末なのにバッドエンド感が必要以上に強調される結果に... さらに後者のラストシーンはアメリカの行き過ぎた資本主義や軍事化に対する批判という政治的側面が露骨過ぎるのもイマイチ。

ところが、そんなこんなでハッピーエンドに作り替えると、今度はその影響で最も切なく涙を誘うクライマックスのSomewhere That's Green (Reprise)とその直前のシーモアとオードリーのやり取りがカットされちゃった😱
ここがカットされた感動シーン... オードリーの言葉(*1)と曲名の意味を回収する歌(*2)に泣いちゃいます。
*1 https://youtu.be/ub2bxfLU2Sg
*2 https://youtu.be/7v2p4-MOLpE
一番の盛り上がり部分がなくなってるので当然実際公開された劇場映画版は満足度が下がっちゃう... そして映画公開後間もなくNYでの舞台版はクローズされてしまいます。う~んミュージカルの映画化ってやっぱり難しい。でもなんだかんだ好きで何度も繰り返し観てしまうミュージカル映画です。サントラはアナ雪のクリストフでお馴染みジョナサン・グロフの優しい声で歌われる2019年リバイバル版のレコーディングがお勧め。

来年は、往年の人気ミュージカル「ウィキッド」が映画化!さてその運命やいかに?楽しみです😊
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