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シシリアンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シシリアン(1987年製作の映画)
3.8
 1947年、シシリア島。農民に土地を分け与えるため立ち上がった若者ジュリアーノ(ランバート)は山賊等と手を組んで、搾取階級から金品を奪い続けた。マフィアのドン(アックランド)の支援を受けつつも、共産党寄りのその行動のせいで次第に追い詰められていく。早朝のパレルモの街をある男が運転した車がゆっくりと走っている。壁面の両側にはジュリアーノの遺影がびっしりと飾られ、車内に涙を拭う一人の男はやがてある施設へと入っていく。記憶にあるオリジナルはもっと直情的であったが、こちらの方がチミノの描きたかった静かな悲劇がダイレクトに伝わり、地味ながらぐっと来る。オール・シチリア・ロケで撮影された贅沢な作品を無駄にしないアレックス・トムソンの流麗なカメラワークも全編を通して素晴らしい。人物の表情にほとんど寄らず、ロング・ショットを多用したチミノの判断も吉と出ている。室内では常に奥行き感を大事にした構図の素晴らしさは、空間から空間へ何度も移動することで真に強調される。1枚ずつ服を脱ぎながら、最後にバスタブに浸かる女性とお手伝いの再三再四に渡る切り返しの描写はもちろんのこと、屋敷の庭の門から逃げる場面や後半出て来る石畳の狭い街並の撮り方など、徹底して奥行き感を大事にしたカメラワークが素晴らしい。

 その中でも特に良かったのは列車の強奪の場面である。トンネルの中で不意打ちに合い、停車した列車の中と外で銃撃戦が繰り広げられるのだが、ここでも奥行きを大事にしたショットの選択にチミノの本気さが伺える。また屋外シーンは山賊だけにほとんど山の上で撮られているのだが、あえて急勾配で傾斜のきつい場所にカメラを置く志の高さを見せている。今作は実在するサルヴァトーレ・ジュリアーノという人物の伝記なのだが、彼の半生をあまりにも端折り過ぎたために、映画全体がやや散漫になってしまった。特に後半部分が駆け足になってしまったのは否めない。ジュリアーノは貧しい住民たちのために土地を与えたが、裏切り者を殺してまで、本気でその土地を欲していなかったという部分を強調する。あえてそこには注力せずに、ドン・マジーノの策士としての人心掌握術に比重を置いた方が主人公と街の権力者ドンの対立の構図としてはシンプルで力強くなった気もするが、チミノの中ではこのサルヴァトーレ・ジュリアーノをどうしても悲劇の英雄で終わらせたかったのだろう。チミノがイタリア人のしがない山賊に惚れ込んだのは彼が自分の思いを押し付けようとすればするほど、民衆にはそっぽを向かれ、やがて親友に殺される悲劇のスターだったからに違いない。
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