メル

イブラヒムおじさんとコーランの花たちのメルのレビュー・感想・評価

3.8
1960年代のパリ、ブルー通り。
昼間から娼婦が立ち並ぶ街でユダヤ人の父と2人だけで暮らす13才のモモ(本名はモイーズ、ユダヤ教のモーゼの事らしい)。

モモと父親は全く反りが合わず事ある毎に「お母さんと一緒に家を出て行ったお兄ちゃんの方がお前よりずっと優等生だった」とモモを傷付ける。

通りの向かい側にはトルコ移民のイブラヒムの店があり、モモは買い物をしながら缶詰を盗んでいた。
しかし店主のイブラヒムは全てお見通し、モモの心の中までも分かっている様だった。

そしてモモに言う「盗みを続けるならうちの店だけでやってくれ」。

イブラヒムはコーランと共に生きるイスラム神秘主義(スーフィー)。
母の愛を知らず父からも愛されていると思えないモモにとってイブラヒムはかけがえの無い友人であり、幸せに生きるためのアドバイスをくれる保護者の様だ。

後半、天涯孤独となったモモを連れて故郷のトルコへ旅立つイブラヒム。
そこにはトルコの自然と様々な宗教とそれぞれの寺院、そして祈る人達がいた。スーフィーたちの回旋舞踊は特に美しかった。

手放しでモモを愛するイブラヒムの深い深い愛。
モモの複雑な生い立ちを知っているイブラヒムは、自分の孤独とモモの置かれた状況を重ねて見ていたのかもしれない。

9.11の後世界中がイスラム教への脅威を抱いてる2003年の作品です。
イブラヒムの様なイスラム神秘主義の生き方を描く事で、多くのイスラム教徒は過激派とは違うんだというメッセージも伝わって来る。

違う考え、違う習慣を持つ人たちの中に自分と同じものを見つければ、宗教や世代を超えて理解し合えるのでしょう。

60'sのR&Bが明るく流れ当時のパリ街角の雰囲気が伝わって来る様だった。
オマー・シャリフの表情と愛情深い言葉が中々良かった。
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