カツマ

ドゥ・ザ・ライト・シングのカツマのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.3
平穏な日常はふとした拍子に修羅場となる。そこはもう花も咲けない焼け野原の跡。憎悪の衝突は善悪の価値観すらも霧散させ、ただ、怒りに身を任せる野蛮な動物たちの遊戯となった。冷静な思考をも失わせるほど、負の歴史は果てしなく根深い。だからと言って『やられたらやり返せ』が正解なはずがないのだ。逆説的に終わりなき問題提起を浮き上がらせては、その出口を必死にまさぐるような作品だ。

人種差別と戦い続ける闘士スパイク・リーの誕生を告げる激烈な風刺作品で、その野心と主張は溢れんばかりに爆発している。淡々と過ぎゆくのは黒人たちの当たり前の日常。しかし、その影には白人との対立の火蓋が燻りながら、その炎の発火地点を今か今かと待ち続けているかのよう。本当の意味での『正しい行い』とは何なのか、それは先人たちがすでに示してきた道の延長線上にあるはずだった。

〜あらすじ〜

イカしたDJが暑い暑いとラップを刻むようにラジオからまくし立てる酷暑の夏の日々。
ブルックリンに住む黒人青年のムーキーは、イタリア系白人のサルが経営するピザ屋で宅配の仕事をしていたが、勤務態度は悪く、サルに叱責されるのが日常茶飯事となっていた。ムーキーには恋人との間には私生児がいるが、恋人や子どもには滅多に寄り付かない困り者で、仕事もサボってばかりだった。
ピザ屋に『黒人の写真が無い』という理由で因縁を付けてくる黒人や、巨大なラジカセを抱えながら大音量で歩き続けるラジオ・ラヒームがサムと諍いになったりと、小さな事件は頻発しているような状況だった。
ほとんどの黒人たちは平和な生活を送っていたのだが、その心の奥には白人への恨み辛みが深く根付いていた。とはいえ、サルのピザ屋は順調に繁盛していたはずだったのだが・・。

〜見どころと感想〜

この映画は黒人監督のスパイク・リーが黒人らしさをそれぞれのキャラクターに植え付けた、非常に嘘のない映画だと思う。白人への嫌悪感を漲らせながらも、黒人を完全なる『善』としては描いていない。かつての白人が黒人を奴隷として扱った暴力的な過去が『悪』であるように、暴力そのものへの警鐘をけたたましく鳴らしているかのようだ。

そしてスパイク・リーといえばブラックミュージックのサウンドトラックが最高にクール!DJサミュエル・L・ジャクソンの軽快なトークに乗せて、原色のアートポイントの上を苛烈なライムがマシンガンのように炸裂するのだ。また、主演のムーキー役は監督のスパイク・リー自身が演じており、それでいて、監督自身の主張を完全に投影させているわけではないあたりも面白い。
暴力はまた新たな暴力を生み、永遠に憎しみ続けるしか道はないのか。DJが叫んだ『お前たちは仲良く出来ないのか!?』という一言が何よりこの映画を現しているような気がしましたね。

〜あとがき〜

ブラッククランズマンに続いてのスパイク・リー作品鑑賞ですが、この作品こそがアカデミー賞を取るべきだったのでは、と思います。数年前に受賞した『それでも夜が明ける』よりも、人種問題の現実的な中心を射抜けていると感じましたが、やはり時代を先取りし過ぎていた作品だったのかもしれませんね。
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