きょんちゃみ

ドゥ・ザ・ライト・シングのきょんちゃみのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
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この映画はいま、Amazonプライムで見ることができる。

この映画の最後には、以下の二つの偉人の言葉の引用、すなわち⑴と⑵が監督によって掲示される。

ただ、そのとき、このふたつの文章が実はすこし矛盾しているのではないかと考えた人々はいないだろうか。実は、私は最初、そう考えた。監督はこの矛盾について考えさせたいのだろうと思った。この矛盾こそ、この映画が描きたかったものではないかと思った。というのも、下の⑴は人種差別解決の手段としての暴力を認めず、⑵は自衛手段としての暴力を限定的に容認しているのである。

例えば、ラジオ・ラヒームのラジカセをバットで破壊したサルの暴力は明らかに自衛の域を超え出ていたし、ラヒームを殺した警官の暴力も、それに報復した暴徒の行使した暴力や放火も、皆自衛の域を超えていた。しかし彼らはみな、まさに自衛のためにこそ、暴力に訴えたのではなかったか。

では、この映画は、自衛手段としてでさえ暴力は絶対に行使してはいけないということが言いたいのか。おそらく話はそんなに単純ではない。暴力を行使する対象を間違えたのだ。ラヒームはずっとFight the powerというPublic Enemyの曲を流していた。果たしてあのピザ屋がPowerなのだろうか。『正しいことをしろDo the right thing』とはいうが、なにが正しいのかを問うている映画である。

この先は実際に、この映画を見終わってから、各人がじっくり考えればいいことだと思う。どうすればよかったのか。答えはひとつではない。

とりあえず、以下に翻訳をつけてみた。




「人種にかんする正義を達成する方法としての暴力というのは、実用的でないし、不道徳的でもある。暴力がなぜ実用的でないのかといえば、暴力は全ての人にとっての破壊に帰結していくような、負のスパイラルだからだ。目には目をという古い法律は、すべての人を盲目にする。では、なぜ不道徳的なのかといえば、暴力は敵対者の理解を勝ち取るのではなく、むしろその相手を辱めようとするからだ。つまり、暴力は、相手に心を入れ替えてもらうのではなく、相手を全滅させようとするのだ。暴力が不道徳的だと私が言うのは、暴力は愛ではなく、むしろ憎しみから養分を得ているからだ。暴力はコミュニティを破壊し、連帯(brotherhood)を不可能にする。暴力は、対話(dialogue)による社会ではなくむしろ、独白(monologue)による社会しか残さない。暴力は自壊して終わる。暴力はそれを生き残った者の中には苦しみを創り出し、破壊者の中には残虐を創り出す。」
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

"Violence as a way of achieving racial justice is both impractical and immoral. It is impractical because it is a descending spiral ending in destruction for all. The old law of an eye for an eye leaves everybody blind. It is immoral because it seeks to humiliate the opponent rather than win his understanding; it seeks to annihilate rather than to convert. Violence is immoral because it thrives on hatred rather than love. It destroys community and makes brotherhood impossible. It leaves society in monologue rather than dialogue. Violence ends by destroying itself. It creates bitterness in the survivors and brutality in the destroyers."--Martin Luther King, Jr.



「私はアメリカには沢山の善い人々が居ると考えているが、アメリカには沢山の悪い人々がいるとも考えている。そして、悪い人々というのは、全ての権力を握り、私やあなたが必要としているものを堰き止めるための場所にいるように思われる人々である。こういう状況だから、私やあなたは、この状況を終わらせるために必要なことをするための権利を守らなければならない。そしてこのことは、私が暴力を推奨しているということを意味しない。だが、また同時に、私は自衛における暴力に反対もしない。私は、それが自衛であるとき、「暴力」を「暴力」と呼びさえもしない。むしろ私はそれを「知性」と呼ぶ。」
マルコムX

"I think there are plenty of good people in America, but there are also plenty of bad people in America and the bad ones are the ones who seem to have all the power and be in these positions to block things that you and I need. Because this is the situation, you and I have to preserve the right to do what is necessary to bring an end to that situation, and it doesn't mean that I advocate violence, but at the same time I am not against using violence in self-defense. I don't even call it violence when it's self-defense, I call it intelligence."--Malcolm X


【ちなみに】


右手に“LOVE”、左手に“HATE”のリングをつけたラジオ・ラヒームのセリフ「右と左はいつも戦っている。左が原因で、人はいつも殺しあうが、右が人の魂にふれ、やがてKO勝ちする」。このセリフはロバート・ミッチャム主演で、チャールズ・ロートン監督のカルト映画『狩人の夜』(1955)からの引用である。
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