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ドゥ・ザ・ライト・シングのyumeayuのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.0
"LOVE" "HATE"

今見るべき作品のひとつ。
っていうか、今作が公開されて30年もたっているのにも関わらず、何ひとつ変わっていない状況がどうかしてる…。

スパイク・リーといえば、黒人の人種差別問題に対して時に言い過ぎとも言えるくらい熱くなっている印象ですが、今作を改めて見てみると意外と冷静なんだと気付かされる。

今作では肌の色だけで決めつけるような単純な人種差別を描いているわけではない。
もちろん白人警官による黒人に対する理不尽な暴力が描かれているものの、今作において圧倒的なマジョリティは黒人たち。マイノリティなのピザ家のイタリア系一家や雑貨屋の韓国人夫婦だ。
黒人であるスパイク・リーが、自分と同じ黒人を普段とは真逆の立場で描いているのは驚きだった。
そこには人種や肌の色に関係なく、社会の根底に潜む"差別意識"そのものを非難しているように感じた。

劇中に登場する人物たちは一見すると、人種に関係なくうまくやっているように見える。しかし、その一方で事あるごとに不満を漏らしていた。
そして些細な言い合いがきっかけで互いの不満が遂に爆発してしまう。

誰もが潜在的に抱えている差別意識。
これは誰もが抱えている"闇"だ。
今作の登場人物たちは、いい加減な奴らばかりだけど決して極悪人ではない。それなのにあんな暴動が起こってしまう。社会は常に危ういバランスで成り立っているのだと思い知らされる瞬間だ。
黒人、白人どちらも決して譲らずひたすら罵倒し合う。厄介なのは自分たちの主張が絶対正しいという思い込み。違う考え、違う主張があって当然だけど、誰も他者を受け入れようとか、分かりあおうという気持ちが微塵もないのが悲しい。
そして遂に取り返しのつかない事件が起きてしまう…。

そんな惨状を嘆いたサミュエル・L・ジャクソン演じる地元ラジオ局のDJが叫ぶ。

「目を覚ませ!」「落ち着け!」

怒りや暴力では何も解決しない。
相手を憎む前に冷静になれと。
そして権力に立ち向かうのならば選挙にいけ!
劇中、奇しくもトランプの名前が登場するのはなんとも皮肉だと思った。

今作に限らず、その後の作品でも一貫してメッセージを発信しているスパイク・リーの想いはいつになったら届くのか…。

そしていつの日か、右手の"LOVE"が左手の"HATE"をKOする日がくるのだろうか…。
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