荒野の狼

斬るの荒野の狼のレビュー・感想・評価

斬る(1962年製作の映画)
3.0
1962年に公開された三隅研次監督の映画で71分のカラー作品。展開が早く飽きない内容で、明るい冒頭から、怪奇性と暗さを帯びた後半にもスムースに移行し、ラストは唐突とも感じられる終わり方。1962年には本作で主演の市川雷蔵は「破戒」でも主演、同作には、本作に出演している藤村志保がまったく性格の異なる役どころでデビューしている(藤村志保の芸名は破戒の原作者である島崎藤村から)。女優陣としては、他に雷蔵の妹役で渚まゆみ、旅先で出会う女として万里昌代が共演し、出演場面は短いが二人とも個性的な存在感をみせる。本作に怪奇性を添えるのが、藤村志保の狂気を含んだ冒頭の演技と、この伴侶である天地茂の常に静かすぎるたたずまい。藤村に先立たれた天地が、長年「二人で生きている」というセリフは意味深く、もの悲しい。原作は柴田錬三郎で、幕末の話。幕府から水戸藩に派遣される松平大炊頭(=松平頼徳よりのり)は実在の人物だが、映画の筋と史実は異なる。
「三弦の構え」という最強の邪剣を身に着けた雷蔵という設定だが、この邪剣は、劇中では構えが登場するのみで、ほとんど使われていないのは残念。見どころは河原での対決で、敵を頭から股まで体の中心線で真っ二つに切断するシーン。この切断シーンは、映画の予告編では、より派手で鮮明であるが、本編の方が、暗い画面で遠景で殺戮が行われるのでリアリティは高く怪奇性に貢献している。
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