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トーク・トゥ・ハーのakrutmのレビュー・感想・評価

トーク・トゥ・ハー(2002年製作の映画)
5.0
ペドロ・アルモドバルの最高傑作のひとつと言われている作品。なかなか見る機会がなかったが、ようやく鑑賞することができた。ストーリーを一言で言うと、植物状態になった女性に恋愛感情を持つ二人の男性の物語。事故で植物状態になった女性アリシアを4年間も献身的に看護している看護師のベニグノは、事故前から彼女に一方的な恋心を抱き、ストーカー的な行為まで行っていた。一方、競技中の事故で植物状態になった女性闘牛士リディアの恋人であるマルコは、彼女を看護していた矢先に、実は競技後に彼女が別れ話をする予定だったことを彼女の元恋人から知らされる。

この映画を見ると、愛とはいったい何なのかを深く考えさせられる。ベニグノの一方的な恋愛感情は、アリシアの意思がわからない状態では、一般的に言って恋愛とは言えない。さらに彼のストーカー的行為や映画の後半で描かれる犯罪行為は、常識からすると避難されるべき行為である。しかし、どのような恋愛も最初は一方的な恋愛感情を契機とした何らかの行為(良し悪しは別にして、相手をデートに誘うのも、相手を付け回すのもひとつの行為)から始まるものである。彼女が自分の意思を表明できない状態だからこそ、ベニグノの恋愛はそのまま存在でき、4年間も献身的に看護するという正当な行為によって、彼の恋愛は道徳的にも正しい恋愛に昇華している。一方、マルコの恋愛は常識的な恋愛であるが、実際にはうまく行かず、いつも不十分な形で終わっている。そのことにマルコが気付いたからこそ、犯罪によって刑務所に収容されたベニグノに対して真の友情を感じ、彼を助けようとする。結末は、ベニグノにとって自分の恋愛を永遠のものにするために必要であるとともに、マルコの今後の展開を予感させるラストシーンは、マルコがベニグノのような恋愛をできるかどうか、その恋愛とは果たして本物なのかを観客に問いかけている。常に常識的でない恋愛や性を描いているペドロ・アルモドバル監督であるからこそ描くことのできた作品である。
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