ふじこ

母なる証明のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

母なる証明(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

遂に観てしまった。観よう観ようと思いつつ、重たいんだろうなぁ~と思って温存してたやつ。
知的障害のある息子トジュンを大切に大切に育てる母。
あまり良くない感じの友人ジンテに少し良いように使われているけれど、他に友人のいなさそうなトジュンのためにお金を出したりする。

ある日ジンテと飲む約束をしていた飲み屋で待ち惚けになり、酔っ払って一人で帰る道すがら前を歩く女子高生に声を掛ける。
相手にされず路地に逃げる彼女を見送って家に戻り就寝。
しかしその翌日遺体となって発見された彼女を殺した犯人としてトジュンが逮捕される事に。
母は絶対にトジュンではないと弁護士を雇ったりトジュンに思い出すように諭したり奔走するもまともな話が出来ない彼に弁護士はすぐに適当な仕事に切り替え、精神病院に数年入れようなどと提案。
そこで母は自ら捜査し、トジュンの無実を証明しようとする。

まず最初に疑ってかかって賠償金を払う羽目になった相手ジンテから、死んだ女子高生アジョンには秘密がある、と聞く。
調べるとどうやら彼女は売春をしていたようで、彼女の客を調べていく事にする。

捜査の合間に度々トジュンに会いに行く中で、思い出した事がある、と言う。
”5歳の時、栄養ドリンクに農薬を入れて俺を殺そうとしたよね”
何時ものふわふわした態度から一片、片手で片目を覆いながら感情のない顔で言う。
母はトジュンを連れて心中しようとした過去があった。ただ確実に死ねるものではなかった為、何日か床に伏せるだけで済んだだけだった。恐らくこの出来事の所為でトジュンの脳に障害が出たのではないかと思う。
母は弁明しながら、太ももに記憶を消すツボがあるから鍼を打とうと騒ぐも許されなかった。

鍼灸の仕事の客から得た情報で、アジョンの友人らしき顔に傷のある女子高生と接触、逃げられてしまうも路地裏で彼女からアジョンの携帯の情報を聞き出そうと暴行する男子生徒を目撃。ジンテに協力してもらい男子生徒からアジョンは父子家庭で認知症の祖母がおり、生活のために沢山の男相手に売春をしていたけれど嫌になってしまい、携帯を捨ててしまいたいと言っていたと聞き出す。

アジョンの家に行き、認知症の祖母を言い包めて携帯を入手。その写真の買春した男の中に犯人がいると確信している母はトジュンに男たちの写真を見せる。
すると一人の老人に反応があり、それは以前雨の日に傘を買った事のある廃品回収をしている爺さんだった。
早速老人の家に行き、話を聞き出そうとする母。

犯人は別にいたからトジュンは釈放されたと嘘を言うと、自分はあの日たまたまあそこにいた、と老人は言う。
その老人が見たあの日の真実は、声をかけたトジュンに石を投げながら”話しかけないで、向こうに行ってよバカ”と罵るアジョンに怒ったトジュンは、石を投げ返すもそれが運悪く頭に当たってしまう。(序盤のエピソードから、何故か バカ、と言う単語にだけ反応して怒る)
路地に倒れたアジョンの身体を屋上に引っ張り上げて柵に引っ掛け、家路に着く。
老人が見た通りにトジュンが逮捕されたから証言するまでもない、と黙っていたが、トジュンが釈放されてしまったのであれば目撃した事を話さねば、と言う老人を制し、たまたま手にした鈍器で何度も殴り付け、動かなくなった老人ごと小屋に火を放ち、金色の野原に。映画冒頭で観せられたあの印象的な謎の踊りはここで行われたのだと分かる。

仕事場で作業をする母の元に刑事が訪れ、真犯人が捕まったと報告を受ける。
アジョンの携帯にも写っていた、ジョンパルという青年だった。彼のシャツについたアジョンの血痕からして間違いないという。
頼み込んでジョンパルと面会させて貰う。
トジュンと同じように知能に問題があり、施設で育ったがために両親の事も知らない彼を見て号泣する母。
彼のシャツに血が付いていたのは、アジョンが鼻血を出しやすい子だった為であり、老人の証言から息子が彼女を殺したのだと知っていて尚、母は真実を口にする事が出来なかった。

トジュンは釈放され、元の母と子の暮らしに戻る。
ある日母は商店街のバスツアーの為にターミナルでバスを待っている。
窓の外を眺めながらトジュンは、どうして犯人があんなに目立つ屋上にアジョンの身体を置いていったのか考えてみた、と話し出す。
怪我をした彼女を早く見つけて、病院に連れて行って欲しかったんじゃないかな、と。
そしてそっと、あの日火をつけた家に忘れてきた仕事道具である鍼の入った煤けた缶を差し出しながら、”落としちゃダメじゃないか”と返して寄越す。

何も言えずにバスに乗り、楽しそうに騒ぐ仲間たちの中で、そっと太ももにあると言う記憶を消すツボに鍼を打ち、仲間たちに混ざって踊り出すところで終わり。


いやぁ面白かった。あらすじだけで言えば物凄い意外性とかがある訳じゃないのだけれど、見せ方と運びが非常にうまい。これがポン・ジュノ監督の手腕なのだろうか…あと、母役の女優さんの上手いこと。
反面、トジュン役の俳優さんはイマイチ上手くないなあと思って観ていたのだけれど、観終わって色々なレビューを読んだら”トジュンは知的障害者ではない”と考える人も居たようだ。
確かに、5歳の時に俺を殺そうとした、と話すトジュンの表情はそれまでのものとは違ったし、まるで母を操って目撃者である爺さんを殺させたようでもあるし、証拠である焼けた鍼の缶を回収してきているし う~む演技ってこと?、とは思うのだけれど、個人的には28歳まで知的障害を演じる必要性を感じられないので(連続殺人犯とかならともかく)、純粋に最初からか、母に農薬を飲まされたあの時から余り記憶の持続力や思考力のない障害を抱えたんだと思った。
トジュンの記憶として語られる事件の話が彼の記憶の限界で、最後に語られる”何故アジョンをあそこに放置したのか”が彼の本当の考えそのものなんだと思う。

いろんなサイトを巡って読んでみたけれど、シナリオ原案を紹介しているサイトが面白かった。
・弁護士が急に偉い人を紹介してなんとか早く事件を解決させようとしたのは実はあの人達もアジョンの客で、更にジンテがアジョンに客を紹介していた。
・廃品回収の爺さんもアジョンの客で、あの日は米と引き換えに買う気でたまたま事件を目撃。ジンテも爺さんの事を知っており、トジュンが去った後もアジョンは息があったけれど、ジンテを呼んだ時には既に息絶えていた。あの場所にトジュンのゴルフボールを置いていったのはジンテらしい。
映画にするにあたってカットされた辺りとか、へぇ~と思うと同時にジンテって拝金主義の悪いやつだけど友達はトジュンだけで、彼の事はなんだかんだ大事にしてるもんだと思ってたらそうでもなかったのか…?映画だけ見たら現場とゴルフボールそんな近かったっけ?とか思ってたけど…う~む。

原題は”mother”だけれども、これは珍しく邦題がつよい。
ありとあらゆる全てを呑み込み、トジュンの為だけに真実に口を閉ざす。
少女の死の真相、無実の青年、それらを見なかった事にしてただ一人最愛の息子のために踊る女はまさに、”母というもの”ではないか。
そうして全てを闇に葬るために息子と同じ罪を犯してしまう。
そう言った意味でもまさに、”母なる証明”ではないかと昏い気持ちで思った。
母は偉大であるが故に盲目でもあるのだろうか。
ふじこ

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