よしおスタンダード

母なる証明のよしおスタンダードのレビュー・感想・評価

母なる証明(2009年製作の映画)
4.2
No.2557
【壊れかけのメトロノーム】

のように、母親の心はあっちへ揺れ、こっちへ揺れ、最後にはどこへ向かって揺れてるのかすら分からなくなる。

まさに冒頭シーンのように「もう、踊るしかない」ような感じになっちゃいます。

このオープニングの母親ダンス、意味不明でなかなかぶっ飛んでるけど、あれは多分、ラストシーンの母親の心象風景なんだろうね。

そう考えると納得できる。ポン・ジュノは、感覚だけでよく意味の分からないシーンを挟むはずがないと思ってるので、絶対オープニングのダンスにも意味があるはずだと。そう思いながら見てた。

それにしても母親役のキム・ヘジャの熱演には最後まで引き込まれたし、もっと驚いたのは、兵役によるブランクを全く感じさせないウォンビンの怪演!! あんな綺麗な顔してこんな奥深い演技を見せてくれるなんて! 瞳のつぶらなこと!!

ポン・ジュノの映画には、よく「頭の弱い人」が出てくる。「殺人の追憶」では、容疑をかけられる焼肉屋の息子、「グエムル」ではソン・ガンホがちょっとネジが抜けてる感じだった。

監督は、こういう「弱者」の象徴のような人物と、それを取り巻く環境や、周囲の人物との距離を描くことによって、社会的弱者に対する韓国社会や世界の「まなざし」そのものを描いてきたんだと思う。

だから「パラサイト」はその集大成なんだね。

映画中盤、親子の面会で、このウォンビン演じるトジュンが突然、あることを思い出しますよね。

このシーンめちゃめちゃ怖かったけど、このシーンが挟まれることによって、お母さんはもうどんな手段を使ってでも、息子の無実を証明しなきゃいけない、と思いこんじゃったんだね。

息子の無実を証明することで、お母さんが背負ってた十字架を下ろすことができる、と勘違いしちゃった、ともいえる。勘違いというより、自己暗示と言った方が近いかな。

「グエムル」にはグエムルの良さがあったけれど、僕はやっぱりどちらかというと、この「母なる証明」や「殺人の追憶」のような「人間の心の闇」を描く作品の方が好みではありますね。

だって「母なる証明」公開時、監督40歳ですよ! 「殺人の追憶」なんかそれより若くて34歳!! 信じられない映画の老成ぶり!!