よしまる

母なる証明のよしまるのレビュー・感想・評価

母なる証明(2009年製作の映画)
3.9
 ポンジュノ監督の作風をボクは「予想の斜め上」と見ている。この言葉自体はすでに様々な使われ方をしていて適切かどうかはわからないのだけれど、単純に「方向」という意味で捉えた場合、上でもなく下でもない、真逆でもなく裏返しでもない、まさに「斜め上」なのだ。

 展開が読めないほど難解でもないし、そりゃねえよというほどぶっ飛んでもいない。こうか?こうか?という読みをちょうどいい塩梅でずらしてくる。そこが楽しい。

 韓国では名女優らしい主人公の女性の奇妙なダンスが意味深なオープニングシークエンス。監督によるとこれは観客への挑戦状だそうで、なるほど、「マザー」とついたタイトルでいきなりこれはない。てかほんまズルいw

 知的障害を持つ2人暮らしの息子(演ずるのは韓国四天王の1人と言われたイケメン俳優)が、殺人の冤罪を着せられ、その濡れ衣を晴らそうと奔走する母親の珍道中、、と、ポンジュノ作品にはついそのような常套句をつけてしまいがちだがやはり今作もその通り、ここはブラックコメディとして大いに笑うなり、笑えないジョークとして顔を引きつらせてビビるなり、じっくりとその世界にハマればよいと思う。

 で、これまたお決まりのラストへ向けての急転直下な展開がちゃんと待っていて、ゾクゾクしながら走り切ることができる。
 いつものことながら置いてけぼりな人物が出てきたり、ご都合主義的な部分が見え隠れしたりもするのだけれど、なにしろ斜め上から次々にぶん殴ってくるものだから、見てる最中にそれが気になることもなく、ただただ最後まで全力で走り抜くのを目を丸くして見るしかない。

 ポンジュノ作品には贖罪が描かれないのが常々不満ではあるが、この作品に限って言えば、冒頭の挑戦的なダンスが見事なエンディングに昇華されるのでむしろ清々しささえ感じられた。これもまた愛の形であるのなら。
 
 長編4作目にして、作家性は残しつつもエンタメの疾走感を見事に表現した快作。実はこの作品のあとはパラサイトまでひとつも観ていないので、なにがどうなってあそこにたどり着いたのか(ちなみにボクはパラサイトはダメでした😓)、少しずつ観ていきたいと思っている。