柏エシディシ

遊星からの物体Xの柏エシディシのレビュー・感想・評価

遊星からの物体X(1982年製作の映画)
5.0
丸の内ピカデリー爆音映画祭にて。デジタルリマスター版。

まだ歯も生え揃わない時分に親父に連れられて観た、自分の映画体験の原風景にある特別な作品の一つ。どこでどんな映画館で観たかは死んだ親父にあの世で聞くしかないのですが、丸ピカの大っきなスクリーン、チューンアップされた音響、今回その映画体験を確実にアップデート出来たと思う。最高に幸せな時間でした。boidさん、樋口さん、ありがとうございます。

はてさて、作品自体はホラー、SF映画史に燦然と輝く、泣く子も黙る大傑作。
お世辞でもなんでもなく、ロブ・ボッティンをはじめとした伝説的スタッフによるクリーチャーは歳月の劣化を感じさせない衝撃度、未だにジューシー&フレッシュ。スピルバーグがCGで映画の歴史を永遠に変えようとも、ウォッシャウスキー兄弟が革新的な映像技術を映画に取り入れようとも、今日まで物体Xを越えるショックを受けた映像体験はないと断言出来る。(そして、再現する事も実質不可能。2011年の退屈な前日譚リメイクが皮肉にも証明してしまっている)

そして、プロットや構成も秀逸。閉ざされた南極基地の中で、次第に疑心暗鬼に囚われていく隊員たち。血液検査のシーンは何度見てもサスペンスフル。これも現代的なソリッドシチュエーション映画への連なりを感じられないでもない。

絶対的にコミュニケエイト不可能なモノへの根源的恐怖。
名匠ハワード・ホークスにも通じる感傷を排除したハードボイルドマナーな語り口。ジョン・カーペンター作品に通底する反逆精神。
こういう気骨のあるエンターテイメント作品は残念ながら少なくなってきている様に思う。
そして、エンニオ・モリコーネと監督自身による音楽はビリビリに痺れる。
極め付けに、やはりエンディングの斬れ味が最高。映画の良し悪しはエンディングの斬れ味で8割がた決まる。それを自分に最初に教えてくれた映画でもある様に思う。
柏エシディシ

柏エシディシ