しどけ梨太郎

地獄の黙示録のしどけ梨太郎のレビュー・感想・評価

地獄の黙示録(1979年製作の映画)
5.0
とにかく演出の妙が冴え渡る映画だった。

オーバーラップを多用した伸びきった時間(移動している間)とカットを高速で切り替える緊張した時間(戦闘している間)との対比によって生み出される緩急が素晴らしい。

顔のショットが多く、人間の感情を強く押し出してきていた。
その上で、影の使い方が上手い。後半は特に影で顔を隠すことで感情を隠している。また、顔の半分を隠すことでそれが本心なのかどうか観客が迷うようになっている。

少しエキゾチックな音楽を鳴らすことで観客の心にベトナムを侵入させて不安感を助長している。
戦場でクラシックやロックを流すことで文化の戦争加担を批判しているような気がした。
シンセサイザーを使ったミョンミョンとした劇伴が良かった。

全身を白く塗り船の上に立ち並ぶベトナム人、下半身裸で首吊りされている男などの印象が強過ぎる(というかやり過ぎな)絵面が良かった。マズい所に来てしまった感が一気に押し寄せて来た。

『フルメタル・ジャケット』のように前半と後半で映画の印象を変えるのは流行りだったのかな?

そして一番印象的だったのは、ベトナムの子供達のほのぼのした雰囲気を見せてからの爆撃や兵が死んだ時にその兵の母からのテープを流し続ける等の心をえぐる嫌な演出。この嫌悪感は大事にしていきたい。

テーマはよく分からなかった。神殺しの話かなあと思ったけど中々そう1つに断言は出来なさそうな映画だった。

劇場公開版だったのでエンドロールが無く、「地獄だ、地獄の恐怖だ」というセリフでスッと終わったのが良かった。