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悲情城市のkuuのレビュー・感想・評価

悲情城市(1989年製作の映画)
3.8
『悲情城市』
原題 悲情城市 A City of Sadness.
製作年 1989年。上映時間 159分。

台湾現代史において、最も激動的な1945年の日本敗戦から1949年の国民党政府の樹立までの4年間を、林家の長老・阿祿とその息子たちの姿を通して描いた台湾製一大叙事詩。
台湾ニューウェーブの雄、ホウ・シャオシエン監督は本作でベネチア映画祭金獅子賞を受賞、その評価を決定づけた傑作。
主演は香港のトップスター、トニー・レオン。
彼は台湾語を話せないために聾唖という設定になったという逸話もある。
1945年8月15日の終戦玉音放送か ら国民政府が台北を臨時首都に定めた48年12月まで、混乱期の台湾の苦難に満ちた様相が、基隆(キールン)に住む林(リン)ちゅう一家とその周辺の人々を通じて描かれていきました。
家長の阿祿(リー・ティエンルー)はもう75歳。
長男の文雄(チェン・ソンヨン)は、船問屋などの経営を任されており、終戦の日には、妾に子供が生れる。
次男は軍医で南方から帰らず、三男・文良は通訳をしていた上海から帰って精神を痛め入院。
事故で耳も目も不自由な四男の文清(トニー・レオン)は写真館を開いている。
終戦で日本のながい支配から解放されたものの、まだ日本語でしゃべる者も多く、親日と見られた人たちへの迫害が強まり、大陸からは、密輸でボロ儲けをたくらむヤクザもんが流れこむ。
台湾育ちの〈本省人〉と解放を題目とする〈外省人〉の対立は激化、林家にも非運が襲いかかる。

ホウ監督は、この経過を、1シーンごとに丹念な演出で描いてて、特に、文清が筆談で寛美という娘 (シン・シューフェン)との愛を深める場面、
ブチ込まれた拘置所で仲間たちが次々に処刑されていくシ ークエンス、
また、連行されることを予想していた彼が寛美と子供と三人で記念写真を撮る場面など、
特にこの文清にからむ場面が深い印象を残しました。
が、悲惨なだけではなく、日本へ帰る女教師のエピソードなども含め、温かい人情の場面もあり、四季の移り変りや風俗を生かした情感豊かな場面も多かった。
1ショットが長すぎるところがあるけど、ホウ監督の充実した映画作りには改めて感心させられた作品でした。

余談ながら、1989年、台湾ではタブーとされていた228事件(1947年2月28日に台湾の台北市で発生し、その後台湾全土に広がった、中国国民党政権による長期的な白色テロ、すなわち民衆弾圧・虐殺の引き金となった事件。)に初めて触れた今作品が劇場公開され、当時、大きな話題となったそうです。
その結果、映画の舞台となった九份(台湾北部の港町基隆市の近郊、新北市瑞芳区に位置する山あいの町)は、この映画の人気で復活し、
映画で見た九份の懐かしい風景や、他のメディアにも登場し、多くの人が九份を訪れるようになったそうです。
90年代に入ると、九份は観光ブームとなり、観光地としての姿を現し、レトロな中国風のカフェや茶芸館、『悲情城市』の名を冠した土産物屋などが次々と建てられたそうですよ。
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