あんがすざろっく

下妻物語のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

下妻物語(2004年製作の映画)
5.0
「アタイのマシンが火を噴くゼッ‼️」

200レビューに到達しました。
これもひとえに、フォロワーの皆様のおかげです。
さて、今回はキリ番200なので、殊更思い入れの強い作品を。



休みの日に車で家族揃って出かける時、よくバイパスを通るんですが、必ず標識が目に入ってくるから気になるんですよね。
その名もシモツマ。

映画を見るまでは、何処にあるかさえ知らなかったんです。
未だに行ったことはないけど、行ってみたい、下妻。羨ましいぞ、茨城県。

こんな気持ちになったのも、全てこの作品のせいだ。
「下妻物語」。

我が道まっしぐらのロリータ女子高生、桃子と、口の悪いヤンキー女子高生、イチゴ。
2人の出会いと友情を描いた青春物語です。

公開当時映画を観ることに貪欲だった僕は、3本ハシゴの最後に本作を劇場で観ました。
周りが、もう女の子だらけ。ロリータファッションをしている子は、あまり見受けられなかった気がしますが。

かなりアウェーな状況での鑑賞となりましたが、女の子ばかりが観るには勿体ない‼︎
観る前と観た後の印象がこんなにも違う映画は、その頃あまり観たことがなかったのです。

ロリータとヤンキーという特殊な設定ながら、女の子だけに響くわけでなく、多くの人が楽しめるポップな世界。しかも楽しいだけでなく、邦画でもこれだけのことが出来るんだ‼︎といたく感動したのを覚えています。


「できればわたしは、ロココの時代に生まれたかった」

兵庫県尼崎で生まれ育った桃子は女子高生。両親は幼い頃に離婚、今は父親(テキ屋)と父方の祖母と共に茨城県の下妻で暮らしている。
ロリータファッションが大好きで、人気ブランド「BABY, THE STARS SHINE BRIGHT」に全てを捧げている。
他人にも興味がない為、友達もいないのだが、全く意に会することもなく、大好きなお洋服に囲まれていれば、桃子はそれだけで幸せ。刺繍が得意なこともあって、お洋服に虫喰いがあれば、自分で刺繍をしてリメイクしてしまう。
「BABY〜」のショップに通う為、週末は片道3時間かけて原宿に出かける日々を過ごしている。

しかし桃子も女子高生、原宿に行く交通費も、洋服代もすぐに底をついてしまう。
テキ屋の父親から、口から出まかせでお小遣いをふんだくるが、それも長くは続かず、かつて父親が製作していたバッタもんのベルサーチグッズ(これが素で神戸からの引っ越しを余儀なくされている)をネットオークションで販売することに。
そんなバッタもんベルサーチを是非購入したいという手紙が桃子の元に届く。
字は汚いし文面メチャクチャだし、どう見ても小学生だろう手紙の主、“イチコちゃん”。
家が近いので、是非会いたいというイチコちゃんを待っていると、やって来たのは改造原付を唸らせるヤンキーだった…。


僕はこの作品が、全てにおいて成功していると思っています。

桃子は小遣い欲しさに、父親のバッタもんグッズを勝手に売っていますが、彼女の中にあるのは、常識的に正しいとか間違っているという物差しではなく、自分が良いと思えばそれでいい。自分が好きなものの為なら何でもする、という、ある意味で筋の通った考え方(本人は性根が腐っている、と自己診断)。

「自分が大事なものは絶対に人に貸しちゃ駄目。
貸していいのはどうでもいいものだけ。
だからわたしは借りたものは絶対に返さない主義。その代わり貸したものは戻ってこなくてもいいって思うの」

だから友達も必要ないし、人がどんな考え方や生き方をしていても、本人が良ければいいんじゃない?私には関係ないから、と冷めています。

両親が離婚する際も、どっちに付いていくか聞かれた桃子が、裕福な母親よりもダメダメ親父に付いていこうと即決したのは「面白そうだから」。
頭で考えるより、直感で生きてきた女の子。

かたやヤンキーのイチゴ。
実は昔は超マジメなお嬢様。しかし、ある日良い子でいる自分に嫌気がさし、プチ家出をした所、帰り道が分からず路頭に迷う。
その時助けてくれたのが、暴走族のリーダー、亜樹美。以来イチゴは亜樹美を慕い、ヤンキー街道まっしぐら。
ヤンキーにはちょっと恥ずかしい、「イチゴ」という本名をひた隠しながら。

まぁ、この二人の組み合わせがバッチリなんです。

成功一つ目。キャスティングです。
桃子には深田恭子さん。
イチゴには土屋アンナさん。

深田さんは、もうロリータファッションがどハマり。可愛いという以外に言葉が出ない。
しかも、桃子のヒネクレ具合が絶妙にマッチしています。

方や土屋さんは、特攻服から、そのガラガラ声から、全身ヤンキーという以外に言葉が出ない(笑)。
ラスト、彼女もロリータファッションに身を包むハメになりますが、これはこれで可愛い。
本人ブチ切れるというオチもありますが。
確か渋谷には実際にロリータファッションをした深田さんと土屋さんの広告が躍ってたことがあったはず。

勿論、主役二人のキャスティングは見事なわけですが、それどころではありません。
全てのキャラクター、隅から隅まで、絶妙な配役。
桃子のダメ親父に、宮迫博之さん。
適当な上に娘には弱い、小者っぽい感じが最高。個人的には、禊を済ませたら芸能活動を再開して欲しい方です。
桃子のおばあちゃんに、樹木希林さん。
片目に眼帯、昔はバイクを乗り回していたという過去を持つキャラクターを、あり余る程の説得力で快演。

イチゴの憧れ、亜樹美に、小池栄子さん。長い髪をなびかせ、「女は人前で涙を見せちゃいけないんだよ」という台詞も板に着いている族長。カッコイイんです。

イチゴが一目惚れする一角獣の竜二に、阿部サダヲさん。
独特の美学と忘れられないニヒリズムが笑いを誘います。
さて、イチゴの恋は叶うのか。

かたや桃子にとっての神様、「BABY〜」の社長、磯部に岡田義徳さん。
真っ当なキャラクターに見えますが、仕草一つ一つがちゃんと主張をしていて、強烈なキャラ達に埋もれていません。

少ない出番ながら、八百屋の兄ちゃん役の荒川良々さんのイモっぽさ、サ行が上手く発音できないパチンコ店長役の生瀬勝久さん。
このレビュー書き上げるのに、ウィキを見ていたんですが、桃子の少女時代、福田麻由子さんじゃないですか‼︎
3月まで放送していた朝ドラ「スカーレット」で主人公、喜美子の妹、百合子を演じていた女優さんです。
朝彼女を見ると、癒されてたんですよ…。


あれ、一人誰か抜けてますね…。
僕は本作を観て、一番度肝を抜かれたのが、桃子の母親を演じた篠原涼子さんでした。
この頃はまだ今のようなオールマイティなイメージがなかったので(TPDの印象が強かったので)、絵に描いたようなコテコテ演技は「この人、女優だなぁ」と驚かされました。
3者面談のシーンから、美魔女を先取りしたようなオチまで、全てが面白い。
この数年後にアンフェアに出演されるんですよね。

これだけ個性が突出してるキャラが勢ぞろいしているのに、誰も相殺されていない。全部しっかり計算されているんです。凄いですよ。


成功の二つ目は、映像です。
アニメがそのまま実写化したような構成と勢い。
全編通して、セピア色に統一されています。
これが何とも独特な雰囲気を醸し出し、後で思い返しても、すぐにパッと頭に思い浮かんでくるんですよ。
桃子の独白シーンも重要なパートになってくるんですけど、彼女は空想の中で空を飛んだり、周りの他人がいきなり自分に話しかけてきたり、ファンタスティックな世界がそのアニメ感に拍車をかけています。

成功の三つ目は、脚本です。
桃子とイチゴの関係性の変化が中心になりますが、青春映画にありがちなあざとい部分とか、ベタになるはずのところが、巧い具合に刺さってくるんです。
かつ名台詞のオンパレード。
それぞれのキャラの成長とか、軸になる部分がしっかり描き込まれてるんです。
今回、レビューを書くにあたり、再度鑑賞したのですが、あれっ、これは大変。
オンパレードどころか、全部名台詞じゃないか‼︎全部名場面じゃないか‼︎

例えば、イチゴが桃子に、特攻服の刺繍を依頼するシーン。
どんなデザインがいいのか、刺繍の大きさとか、細かい注文をしないイチゴなので、逆にどうしてよいのか躊躇してしまう桃子。
それにイチゴが答えます。
「特攻服預けるっていうのは、命を預けるのと同じことなんだよ。全部、何もかも、お前に任せる」
この一言で、桃子は自分に自信をつけていくのです。
そしてこんな言葉からイチゴの熱い性格が滲み出てくるんですね。
「御意見無様」なイチゴの生き方が、ジワジワと効いてきます。


「今日からこれ🥬が、あなたのダチです」

最初、桃子は他人に対して冷めている子なので、勿論こんな暑苦しいイチゴをうざったく感じてるんです。
それでも何だかんだと絡んでくるイチゴ、桃子はだんだんとそのペースに巻き込まれることに。
何故イチゴはそこまでして桃子に付きまとうのか。

「そんなに欲しいなら奪っちゃえばいいじゃん。
人の物でも、好きなら取っちゃえばいい。
人は誰だって裏切る生き物なの。
"裏切る"と書いて "に・ん・げ・ん"と読むの」

川原の土手でイチゴが号泣するんですが、この時に見せる桃子のさりげない優しさ。
それまでの桃子なら、なんで泣くのか分からない、馬鹿みたい、と一蹴するのでしょうが、その後の桃子独白のシーンで
「アホみたいだけど、それがイチゴなんです」
とイチゴを評しています。
この時すでに桃子にとって、イチゴが大切な存在になっており、性格は違えど、ちゃんとイチゴを認めていることが分かる、大好きなシーンです。


対立するヤンキーグループに、桃子のような友達とこれからも付き合っていくのか、と因縁をつけられたイチゴは、こう返しています。

「コイツはダチじゃねぇよ。桃子は自分で決めたルールだけ信じて、いつだって一人で立ってるんだよ。群れなきゃ走れねぇアンタらとは、格が違うんだよ」
イチゴ、カッコ良すぎます。

そしてこの後の桃子の覚醒‼️
そのギャップが堪らないのです。



「キミじゃなきゃ駄目なんです」

駅のホームを挟んで会話する桃子とイチゴ。
洋服作りの夢を目の前にして、自信をなくす桃子にイチゴがハッパをかけます。

「お前の才能を認められてるのに、何悩んでるんだよ。お前が作らなけりゃ、その服着たい奴はどうすりゃいいんだよ。ジャスコで済ますしかねぇじゃねぇか‼︎」

ジャスコ‼︎下妻と言ったらジャスコ‼︎
今はAEONでしょうけど、これ観た時からジャスコが頭から離れず(笑)。
下妻にはジャスコ‼︎ヤンキーには尾崎‼︎深キョンには金属バット‼︎



この他にも名台詞やサブカルの描写がたくさんあるのですが、あり過ぎて書ききれません。



音楽も良かったですねぇ。
前面に出ることなく、ちゃんと映画を後ろから支え、全てのシーンを更に魅力的に映し出しています。
主題歌はTommy heavenlyの「Hey my friend」。
「タイムマシンにおねがい」といい、「美しき青きドナウ」といい、曲のセレクトも最高。
しかし一番は、やっぱり尾崎ですね。
負ける気がしねぇ‼︎


これら全てを束ねたのが、中島哲也監督。
今の邦画界を牽引している監督の一人ですが、当時はCM業界での活躍がメインで、
NTT東日本(SMAPのガッチャマン‼︎)やフジカラーの写ルンですなど、その映像センスはやはり印象的で鮮烈でした。
全ての作品は観ていませんが、僕はやっぱり「下妻物語」が一番好きですね。


何年か前に家族で電車に乗って出かけた時、前の座席にロリータファッションをした女の子(10代後半か20代前半?)が座ってたんですが、うちの娘(当時幼稚園生)がその子を見て「あのお姉さん、可愛い❤️」と目を輝かせていました。
娘よ、大きくなったらお前もロリータファッションをするのか…。
それを考えると、ちょっと気持ちがザワつきましたね(笑)。


王道ながら斬新。
サブカルと極彩色、強烈なキャラの洪水、ムネアツな台詞と友情物語、だけど見始めるとサラッと見れてしまう、丁度いいボリューム。
今見返しても、どこにもツッコミを入れられないのが逆に悔しい、嫉妬してしまう程の完成度。

言いたいこと、やりたいこと、見せたいものが
全くブレずに突っ走るエンターテインメントです。
深キョン、今も全然変わらず可愛いのは、日本の七不思議の一つですね。



今は劇場に行きたくても行けない現実、そんな中でも映画への愛だけは忘れず、皆様のレビューも楽しませてもらいながら、乗り越えていきたいと思います。
相変わらず(というより、以前にも増して)思い入れと一人で勝手に盛り上がる傾向が強くなってきてますが、今後とも、どうか何故宜しくお付き合い願います。
あんがすざろっく

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