たつなみ

殺し屋1のたつなみのレビュー・感想・評価

殺し屋1(2001年製作の映画)
1.0
原作コミックが超面白かったので思わず劇場版をレンタル。

映画としての本作を論じる前に、原作についてどうしても語っておきたい。
原作は容赦のない暴力描写とエログロで完全に読む人を選ぶ。
特に拷問のシーンは確実にトラウマもの。
しかも出てくる女は殆ど酷い目に会う。

こんなにも過激な原作だが、決して暴力を礼賛したり、グロさを楽しんで描いているわけではない。
物語はチンピラどもを率いる謎の”オヤジ“がヤクザの組を潰そうと画策する話ではあるが、それはあくまでも表向きのカタチに過ぎない。

この作品で描いているのは『究極のS(イチ)』と『究極のM(垣原)』による”恋愛“。
そして、劇中には所々でとても哲学的なセリフが散りばめられている。
特に印象的なのは、
『イジメられたくないからイジメられたい。
イジメたくないからイジメたい。』
というセリフ。
SとMの世界では、お互いが一方的な”妄想“(思い込み)をぶつけ合うことこそが本当の『愛』であるという考えや、
そうでなければ『絶望』いうエクスタシーに到達出来ないという世界観が存在するらしい。
…SMに全く興味の無い私でもとても引きこまれた。
以前にD・クローネンバーグの『クラッシュ』について、高橋ヨシキさんが『人間は自由だ』と評していたのを思い出した。
正にこんな性愛は人間にしかあり得ない。

……前置きが長くなったが『劇場版』としての本作。
原作が素晴らし過ぎてハードルを上げ過ぎたのは仕方ない。
2時間で単行本10巻分を再現しようとした意欲も分からなくはない。

…が、これは酷い……酷すぎる!
余りにも原作のメッセージを蔑ろにし過ぎ。
過激な残酷描写ばかりにこだわり過ぎて、キャラクターの造形とか舞台設定もホントにいい加減。
いつもの三池崇史の”悪ふざけ“が過ぎる。
カレンはなんであんなバイリンガルの外国人? 全然小悪魔的じゃないし!
ってか何なんだよ『ポチ三郎』ってよ!オイ!

一番許せないのは垣原とイチの対決シーン。
なんじゃあれ!?
あそこが原作で最も描きたかったシーンなのに…。
この期に及んでなんで謝ってるんだ!イチよ!

いつも思うんだが、原作の映画化っていちいち全部再現しないとダメなの?
原作が持つメッセージを忠実に伝えられれば、別に細かい設定やキャラクターはオリジナルでも全然いいと思う。
どうせ2時間しかないんだから、監督の独自の解釈で自由に描けばいいと思うんだが…。
多分色々なオトナの事情があるんだろう。

マンガ原作の映画化が相次いでいる昨今、このままでいいのか?と思わず憤りを感じてしまった。
でも原作は本当にオススメ!