カツマ

エル・スールのカツマのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
3.9
まるでジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画の中にいるかのような、煉瓦色の光と漆黒の闇。それは思い出の中へと沈められた父親の記憶。印象的なシーンを絵画のように切り取って、その陰影は戻らない時間を遥か遠くへと置き去りにした。
ヴィクトール・エリセ監督の長編第2作。後半部分を切り取られたという逸話があるだけに、物語はエルスール(南方)まで辿り着いてはいないが、それが先を予見させる余韻となって残る。当時のフランコ政権へと投げかける何かが後半部には秘められていたのかもしれないが、切り取られたことでむしろこの映画のアート性は増していた。

まだ朝の未明、父の名を呼ぶ母の声。娘エストレーリャのベッドの下には父が愛用していた仕事道具が残されていた。父はきっともう戻ってこないだろう。
そこから記憶は過去に遡る。父アグスティンはある超能力を駆使して水脈を掘り当てたりと、その力は謎に包まれていた。エストレーリャは次第に父の過去に興味を持つようになり、謎めいた父親を観察し始める。彼女がアグスティンの手紙の中に母親以外の女性の名前を発見してから、父親は次第に家に寄り付かなくなっていくのだが・・。

寡作なヴィクトールエリセ監督の作品の中でもセリフや背景が分かりやすく、シンプルに親子の物語として珠玉の出来。それに加えて、光と陰に油彩を乗せたかのような映像技巧は自然を超越する色彩を生み出している。カモメの表札がまるでマグリッドの『大家族』を彷彿とさせ、そのカモメがクルクルと凍てつく空気に晒されるのと同様に、家族への乾燥した冷気が流れ込んでいくかのよう。カットの一つ一つにも多義性を見出せる、創造力を大いに刺激される作品でした。
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