ベルモット

エル・スールのベルモットのネタバレレビュー・内容・結末

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2回目の鑑賞で色々と変わったので、前回のレビューを消して新しく書きます。

暗い画面がだんだんと光を捉えるショットの切り替え。舞台が暗闇から浮かび上がってくるこの演出が作品全体に影を落とす。

『ミツバチのささやき』に続き、歴史的背景から作品を読み取るとスペイン内戦による分裂がテーマとして浮かび上がってくる。
しかし私は世界史には全く詳しくない。少し調べて分かったこともあるが、知ったかぶりはしたくないので純粋にストーリーを受け止めてみた。

色んなものをかき分けて進んでみて、辿り着いたのはエストレリャにとって父アグスティンがどんな存在かという問い。彼女は父が自分の初聖体拝領の日に来てくれるかをしきりに気にしていた。そして当日、教会へ来てくれた彼を気遣いながらもそこにいるようにと伝えた。そのやりとりは家族と言うにはエロティックで、恋人というには清潔で純粋だった。
彼女にとって父は憧れであり分身でもあるのかもしれない。彼のことを理解していなければならない。側にいなければならない。
しかし彼女は、そんな父から秘密の匂いを嗅ぎ取ってしまった。はっきりと輪郭を持たないしこりを見つけてしまったのだ。
そのときの彼女の戸惑いと不信感は映画の中では解決しない。娘が自分の秘密のことで悩んでいるとは知らずに、父が沈黙を貫くからだ。

父との最後の食事シーン。ついに彼女は小さく彼を拒絶した。彼女の深刻な疑問は曖昧な答えで濁され、また父も密かに戸惑う。
止める彼を制して席を立つ。その場に流れているのは初聖体拝領の日に二人で踊った曲だった。賑やかな音楽とは裏腹に騒がしい静寂が二人の間には流れている。
これが最後だとは思いたくないが、次に父が画面に映ったのは顔が隠された死体としてだった。
『ミツバチのささやき』同様、突然消えた大きな背中が少女の心に傷を残した。

父への言葉にならない愛情を私も知っている。父親とは絶大な信頼と尊敬の対象なのだ。
実態の見えない秘密に不信感を覚える少女がその問いを口に出来ないのは、その愛故であろう。
少し大人になってやっと口に出来たそれも、宙に浮いたまま、振り子のように哀しく揺れているのだ。
ベルモット

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