Kuuta

エル・スールのKuutaのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0
父の心の見えなさと移り変わる娘エストレリャの心境を、陰影の効いた撮影で描く。窓からの光と冬の張り詰めた空気感。朝日に照らされていくエストレリャの表情、ベッドの母に寄り添う父。冒頭から宗教画のような構図だ。聖体拝領の青の照明も見事だった。

家族を断絶させる内戦。普通の社会から外れた「家」の外側、エルスールに続く長い道には次の時代が待っているのか。太陽が昇れば白と黒は簡単に入れ替わってしまう。反体制派の父はカトリックの敵であり、聖体拝領の日に銃を撃ったのは精一杯の抵抗だろう。

振り子を操る「魔法使い」の父をエストレリャは無邪気に尊敬しており、ブランコ(振り子)に揺られ、父のバイクに乗る。だが父の過去を知って親が全能でない事を理解し、自分で自転車に乗るように成長していく。

ガラスと窓枠で区切られた父娘は、繋がっているようで繋がっていない。父はダウジングが出来るが、階下の娘とコミュニケーション出来ない。「学校をサボってもう少し」という提案を拒絶する娘の姿に、かつて愛した女性の姿が被ったのだろう。聖体拝領のドレスと、花嫁の衣装が重ねられている。

聖体拝領後のダンスシーンでの「手前に引いて父と娘を写し、再び奥に戻る」カメラや、「道を行って帰ってくる」だけで時間経過を表現してしまう等、縦の動きの使い方も面白い。エルスールのイメージが、乳母と祖母と写真だけで膨らんでいく描写も上手かった。

と、何とかここまで気付いたことを列挙したが、この人の映像は言葉にするのが本当に難しい…。空っぽの父親の心境は掴めた感じが全くしなかった。まぁ、だからこそ良い映画、としか言いようがない。80点。
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