KnightsofOdessa

クール・ワールドのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

クール・ワールド(1963年製作の映画)
3.5
No.400[世界は冷たくてカッコいいのさ] 70点

"白人は悪魔だ!黒人こそ人類の起源だ!"という演説で始まる強烈な映画。ハーレムにカメラを持ち込んだ初めての商業映画とされているシャーリー・クラークの長編二作目。一作目「ザ・コネクション」を観ていたフレデリック・ワイズマンによって企画が持ち込まれたが、製作に苦労したようで、以降は自分の作品以外に関わることを止める。本人も本作品については語りたがらないらしい。ちなみに、彼が監督としてデビューするのは4年後の「チチカット・フォーリーズ」である。この持ち込まれた原作というのが当時赤狩りの余波で仕事にあぶれていたロバート・ロッセンの書いた演劇であるらしい。彼はすぐ後「ハスラー」を撮って復活するもすぐに死んでしまう。

主人公デュークはロイヤル・パイソンという不良グループに所属する不良少年。白人の情婦を持つ"プリースト"から銃を買ったら何かが変わると信じている。仲間の少年の家をアジトにすることになったロイヤル・パイソンの面々の前に、リーダーが若い情婦を連れてくる。彼女は金さえ出せばメンバーの誰とでも寝る15歳の娼婦であるが、彼女に惚れ込んだデュークはコニーアイランドに連れ出し、海岸で彼女を見失う。アジトに戻ってくると、敵対する不良グループのウルヴズと抗争が勃発しており、それに巻き込まれたデュークはウルヴズのリーダーを刺殺する。アジトでは匿ってくれと逃げてきていた"プリースト"が死んでおり、自宅に逃げ戻ったデュークは逮捕される。

演劇映画であるとは冒頭に書いたが、どうも同時代の記録として機能している部分が大きいように思える。大きな不良グループの抗争を軸にはしているが、それこそがハーレムの生活の一部であり、生き延びるためにはそうするしか道がないという90年代のロシアみたいな状況が実際に起っていたことを伝えているのだ。拳銃を持てば何かが変わるかもしれないという考えが全ての貧しいアメリカ人の思想の根底にあるんだろうけど、実際銃を持ったくらいじゃ何も変わらないというか寧ろ悪化し、ゆらゆらと破滅に向かって堕ちていくデューク青年を見るのは結構辛いものがある。そして、この場合の"銃"は暴力的な要素の象徴として現れるので文化が違えば別のものになるある種のマクガフィンであるのは間違いない。"暴力"を得ることが出来れば自分の世界が変えられるかもしれないという閉鎖的で幼稚な考えが蔓延している世界を描くことで、クラークは世界を変えたかったのかもしれない。

例の本の記事では"なんとしても見つけ出して観るべき傑作"と出回ってない前提で話してて大いに笑わせて頂いた。前々から思ってたけど死ぬまでに見せる気がないよね、コイツら。

世界は想像以上にクールだった。
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