三四郎

間諜未だ死せずの三四郎のレビュー・感想・評価

間諜未だ死せず(1942年製作の映画)
4.0
吉村監督の演出、やっぱ洒落ててバタ臭くて好きだなぁ。冒頭は美男子盛り沢山の作品!この映画で唯一気に入らないシーンはラスト近くの王が縛られぶら下げられている鞭打ちのシーン。当時はあれが拷問の鉄板だったのかもしれないが、あそこだけ安っぽくて、なんだかガッカリ。鞭ではなくピストルの方が、あのバタ臭い映画には合っていた気がする。

Bar “Red Lily”のシーンや支那人形を並べるシーンはいかにも吉村監督らしいキザでロマンチックで嬉しくなった。
支那人形のお嫁入り行列に水戸光子も「まあ随分賑やかなお嫁入りねぇ」と見惚れているが、たしかにこの支那人形たちが可愛らしくおとぎ話のようで惚れ惚れする。「どうです?貴女もこうやってお嫁入りなすっては?」「いい風景ですよ。賑やかな音楽に送られて、この行列が行くんです。その頃はちょうど杏子の花の真っ盛りで…千里鶯は啼いて緑紅に映ず…一面春の風に煙ってるんです」と言い寄る王。それに対し水戸は「今度お帰りになったら貴方も早速お貰いになるのね」サラリと躱す。「いやぁ来てくれる人があるかな?」「ありますともいくらでも」「いくらあったってダメです、貴女のような方でなきゃ」王はねばるが躱され相手にされず。終いには「ねぇ王さん、日本の女に心にもないお世辞をおっしゃるものじゃありませんよ」と窘められてる笑
兄の写真が箪笥の上から落ち写真たてのガラスが割れ、兄の死を象徴。

また日守演じるフィリピン人と王のシーンがなんとも素敵だった。
日守「私には故郷はあっても祖国はないのですよ。ねぇ王さん聞いてください、私の故郷の話…(略)」
ここが本当に心に沁みた。私の場合は祖国はあっても故郷がない…。
続く港の灯りを眺める部屋で、
「ねぇ王さん、港町の夜ってどうしてこうノスタルジーを起こさせるんでしょうね…ねぇ王さん、あなたさっき中国を愛すると言いましたね?」
王「ええ、抱きしめてやりたいほど!」ここの一連のシーンがあるだけでこの映画が単なる陳腐な国策映画とは言えない気がする。反米英と日本の正義を誇張しなければ、現代でもスパイものとしてもっと奥深い作品に作り変えることができそうだ。

木暮実千代の「愛の讃歌」の鼻歌も洒落た演出だった。そして彼女の泣き叫ぶ全身の演技、当時の日本の女優にここまでダイナミックな日本人離れした表現ができる女優がいただろうか。見事だった。

アメリカ人を日本人にやらせ、日本語会話というのが…戦時中の限界を感じて悲しい。
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