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用心棒のnetfilmsのレビュー・感想・評価

用心棒(1961年製作の映画)
4.1
 すきま風が吹き付ける寂れた宿場町、浪人は1人、枯れ木を握りながら物思いに耽る。バカ息子を勘当する瞬間に居合わせた浪人は水を一杯恵んでもらおうとある家を訪れるが、「血の匂いに野良犬が集まる」とその家の主人は心底嘆いていた。宿場町は賭場の元締めである馬目の清兵衛(河津清三郎)と、清兵衛の部下だったが跡目に不服を持って独立した丑寅(山茶花究)一家の抗争によって廃れていた。2人はそれぞれ町の有力者である名主で絹問屋の多左衛門(藤原釜足)と造酒屋徳右衛門(志村喬)を後見人とし、泥沼化した抗争は一向に終わる気配がない。ふらりと立ち寄った居酒屋の権爺(東野英治郎)から大方のあらましを聞いた浪人は、代金の代わりに宿場町を平穏にしてやると大見得を切る。だが浪人は丑寅の子分を3人ほど瞬時に斬り殺すと、清兵衛一家に桑畑三十郎(三船敏郎)と名乗り、最終的に50両まで値を吊り上げて売り込む。凄腕の浪人を手に入れた清兵衛は一気に方を付けるとし、総力を挙げて討ち入りをしようとするが、清兵衛が女房のおりん(山田五十鈴)と抗争が終わったら三十郎を始末する算段をしていたことがバレており、三十郎は土壇場で離脱してしまう。

 男はしたたかに深謀遠慮を図りながら、清兵衛一家と丑寅一家の弱点を突く。たまたま入った飲み屋で、一宿一飯の恩義を感じた男は、対立する2つの組織に近づいて双方を欺こうとする。途中、八州廻りの邪魔などイレギュラーな問題は挟みつつも、丑寅の弟の新田の亥之吉(加東大介)のバカさ加減も相まって、計画は成功するかに見えたが、そこに末弟の卯之助(仲代達矢)の厄介な嗅覚が冴え、三十郎の計画は頓挫しかかる。それにしても今作が見事なのは、たった数十mの間で繰り広げられる抗争劇が、110分間真に飽きさせない点である。当初はただの銭ゲバに見えた三十郎が、百姓である小平(土屋嘉男)とその女房ぬい(司葉子)の顛末を知り、情に絆されて一家を峠に逃がす。まさに「弱きを助け強きを挫く」心優しき悪漢としての三船敏郎の姿が一際印象的である。だが小平の至らなさゆえに、卯之助にバレ、半殺しの憂き目に遭った三十郎は起死回生の逆転劇を仕掛ける。丑寅の用心棒かんぬきを演じた羅生門綱五郎の怪演ぶり、人質に取られることになる無宿者の瘤八(加藤武)と熊(西村晃)の実に人間らしい所業の生々しさ、そして念仏堂まで死体を担いで歩いた亥之吉の馬鹿馬鹿しいユーモア。「ペンは剣よりも強し」を体現した三十郎は、自らの命とも呼ぶべき刀を取り上げた相手に、Smith & Wessonを握りしめさせる。その弔いの情と男が全編を貫く。
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