垂直落下式サミング

俺たちに明日はないの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

俺たちに明日はない(1967年製作の映画)
4.0
経済恐慌時代の実在した男女二人組の強盗「ボニー&クライド」の凄絶な生きざまを描いたアメリカン・ニューシネマの先駆け的作品。
思慮の足りない乱暴者と、平凡な生活に飽き飽きしている女。運命の人と出会ってしまったことで、男女の人生が破滅に向かっていく。
ふたりが順調に犯行を重ねていく様子が、ハネムーン中のカップルのかわす痴話のようにみえてくる不思議。暴力映画なのに恋愛ものテイストという人を食ったような雰囲気それ事態、ヌーヴェルバーグに影響を受けていそうな匂いを漂わせている。
凶悪な犯罪行為を描いていながらにして、中心人物たちの生態はなかなかにチャーミング。客観的にみれば、破滅的な人生を進んでゆく彼らであるが、アウトローなりの仁義に準じる思想性は予想外に魅力的だ。
彼らは、どのような人生を歩んできたのか、けして恵まれたものではなかったであろう。これまでの人生が反映されたキャラクターの言動から、その境遇が滲み出しており、世界恐慌真っ只中のアメリカというハードコアな社会背景も相まって、彼らの人格と価値観を形成するに至った精神上の筋金をしっかりと視認できそうな生身の実在感を有する。
『チャイナタウン』や『タワーリングインフェルノ』に出ていたフェイ・ダナウェイのさらに若いころの姿をみれて嬉しい。お姉さん系美人ってイメージだったけど、キャリア初期のこの作品では、あどけない少女のような表情もみせる。ちょっとかわいすぎて好きになってしまいそう。
とにもかくにも、ラストシーンの壮絶さですね。その一点で、この作品は歴史に残った。鳩が飛び立ったのを合図に、次々と映像が切り替わり、悪党たちは最後の時をむかえる。
銃弾の雨が止んだあと、静寂とともにグッタリとうなだれながら、少しだけ体を動かすのが虫の息感を演出しており諸行無常。少し前まで調子にのってたのに、プツンと糸が切れたように動かなくなる。
ニューシネマにありがちな「責任を伴わない逃避行」ってのが嫌いだったんだけど、このボニーとクライドは、最後に自分等が他人に及ぼした不幸のぶんだけの割りをくったかのように惨めったらしく死んでいくから、しっかりとやらかしたぶんだけの負債を清算してあの世に旅立っていったような気がした。見事な生前債務整理。
このピカレスクロマンの主人公たちは、映画のカメラが寄り添うに値する人物達だったと思う。わきまえのある人は好きよ。『ナチュラルボーンキラーズ』とかそこらへんの、やるだけやって逃げきりみたいな、天秤の釣り合いとれてないのは嫌いです。