映画漬廃人伊波興一

モン族の少女 パオの物語の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

モン族の少女 パオの物語(2006年製作の映画)
3.7
「青いパパイヤの香り」に出演したゴー・クァン・ハーイの監督デビュー作「モン族の少女 パオの物語」はベトナム北部の小さな村から「映画」だけの心臓の鼓動を私たちに伝えてくれる生きた映画でした

ベトナム北部、中国との国境地域に暮らすモン族という少数民族の女性の実話が元だそうです。この作品に脈打つ鼓動に実話とかフィクションとかという区分は必要ございません。ただ、実の母の姿を追い求める少女の軌跡。それだけで充分であり、またそうでなければなりません。

友達のうちに宿題を届けるキアロスタミ映画の少年のように少女の目的も一直線。少し休まないか?と肩のひとつでも叩きたくなります。物語の結末は決して楽観的なものではありませんがここまでの軌跡を自分の足で辿ってきた少女はすでに周囲の大人たちが心配するような存在にはなっていません。

核心に近づくにつれ彼女の心臓の鼓動がたおやかに、だが、はっきりと伝わってくるような生きた映画でした。

それにしても
「小さな中国のお針子」(ダイ・シージェ戴思杰)
「孔雀 我が家の風景」(クー・チャンウェイ顧長衛)
「山の郵便配達」(フォ・ジェンチー)
「三姉妹 雲南の子 三姊妹」(ワン・ビン王兵)
「ココシリ」(ルー・チュアン 陸王)
「天上草原」(サイフ  マイリース)
「ブンミおじさんの森 ลุงบุญมีระลึกชาติ」(アピチャートポン・ウィラーセタクン)
「風の前奏曲」(イッテイスーントーン・ウイチャイラック)
「ナヴァラサ」(サントシュー・シヴァン)
「ガレージ」(アガン・セント―サ)

等々、中国、台湾、韓国だけでなくタイ、インド、インドネシア、モンゴルそしてベトナムといった東南アジア諸国の佳作によく巡り合えて幸せな限りです。一本観るたびにまた世界が少し広がった気がします。そろそろ初老に入る身には有り余る贅沢といえます。