♪ なぜ悲しみがあるの なぜ喜びを求めるの
なぜ不安になるの ねぇ なぜ生きてるの
これは地味にスゴイ作品ではないでしょうか。
戦争映画なのに戦闘の場面がありません。と言っても主人公が衛生兵だからではなく、バリバリの狙撃兵。腕も悪くありません。練習場面だけ見たら百発百中です。
では、なぜ戦う場面が存在しないのか。
それは舞台が“湾岸戦争”だから。
主役は空爆とスカッドミサイル。
砂漠の中を汗水たらして進軍するのは時代遅れになってしまったのです。
しかも、勢いよく派兵したところで大切なのは攻撃前の準備。右から左から政治的決着を目指している間は、指を動かすことも許されないのです。
うはぁ。これってツラい話ですねえ。
何しろ、軍隊なんて男子高校生の集団と同じ。悪ノリと悪ノリと悪ノリしか存在しませんから、暇があれば「ヒーハー」と騒ぎ出すわけで。うーん。無駄なカロリー消費をしていますなあ。
だから、戦争映画っぽくありません。
銃は撃たない。暇があれば騒ぐ。しかも、主人公はジェイク・ギレンホール。あの口元が弛んだ顔が「この作品はコメディなのよ」なんて言っているかのよう。蕩けるほどに弛緩した物語でした。
が、そこで終わらないのがサム・メンデス監督。すべては『アメリカン・ビューティー』のような皮肉。地獄の釜の蓋が開いた瞬間は…正直なところ、鳥肌が立ちました。まさに眼前に拡がるのは黙示録の世界でしたから。
それを考えると後年に仕上げた『1917』はど真ん中ストレート。このギャップが堪りませんね。多作な監督さんではないので、手掛けた作品の割には知名度が低いのですが…注目しないのは損だと思います。
まあ、そんなわけで。
傲慢な人類に向けたメジャーコードの鎮魂歌。
どんな戦争でも、脳味噌のどこかが壊れなければ生きていけない…と遠回しに、時には直接的に語る傑作です。なお、カタルシスに期待すると肩が下がりますので、ご留意のほど。