アラサーちゃん

私の殺した男のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

私の殺した男(1932年製作の映画)
3.7
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〖私の殺した男〗
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ビックリしたんですよ、この映画観て。
あらすじは〖婚約者の友人〗のおかげでさっくりとは知っていたけど、まさか冒頭1分でこんな素晴らしく主張してくるショット(画像二枚目参照)があるとは思いもよらずに、目が離せなくなりました恐るべしエルンスト・ルビッチ。わかります?戦争で片脚失くした人の股下から戦争のパレードが見えるんですよ。この時代にこんな秀逸なショットが存在するなんて。

タイトルである意味ネタバレしちゃってますが、オゾンの〖婚約者の友人〗と同じ原作がベースになってます。

どっちが原作に忠実なのか知りませんが、オゾンでは中盤まで隠していた謎が、ルビッチではあっさり序盤で映されます。
というか、むしろ、その謎の男こそ主人公であって、ヒロインよりも彼の心の葛藤がくっきりと、そして繊細に描かれています。なるほど、と思う反面、確かにこの映画観ると『かわいそうで、でも芯のしっかりした心の美しいヒロイン』の内面を掘り下げて見てみたくなるなあ、という気もしました。

オゾン版の後半パートはルビッチ版にはなく、前半パートを気持ちよいところで切り取ってエンディングとした、昔の映画らしく清々しい短さの(70分強!)安心できる余韻。
やっぱりオゾン版は『サスペンス』と『ゾワゾワ感』に重きを置いた作りなだけあって、しっかりとオマージュはされているものの、ルビッチが印象強く作り上げた①円卓で父親たちがビールを飲むシーン、②ヒロインが婚約者の最期の手紙を読むシーン、この二つのドラマチックさがどこか物足りなかった。

ルビッチが描く両シーンは、まあ見事だった。
父親役に恐らくMGMから借りた大スター、ライオネル・バリモアを使っている時点でいいシーンを当てる寸法だったのだろうけれど、①の父親の迫真の独壇場はさすがだった。遠まわしな反戦映画とも言える作品のなかで、いちばんハッキリとしたメッセージを残すのはこのシーンではなかろうか。
②に関しても、昔の映画なのでどうしても舞台っぽい掛け合いになって大袈裟な感じは否めないけど、オゾンほど焦らしてこないシンプルな男女の関係がそこにあって、ふたりの心情が分かりやすい。とても胸を打ついいシーンです。

どうしても先に〖婚約者の友人〗を観てしまっているので、比較して鑑賞してしまった自分が少し悲しい😂
オゾンは好きだし〖婚約者の友人〗は好きだけれど、やっぱり昔の映画のストレートな感じが好きだな。

あらすじは、〖婚約者の友人〗のネタバレになってしまうので割愛。