晴れない空の降らない雨

ポパイと船乗りシンドバッドの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

-
 本作の主人公ポパイは、もともと人気漫画家エルジー・シーガーの『シンブル・シアター』(1919年連載開始)に1929年に登場したキャラクター。脇役だったにもかかわらず、すぐに主役の地位に登りつめた。そんな彼がアニメーションにデビューしたのは1933年の『船乗りポパイ』であり、これはベティ・ブープを主役にしたシリーズの1作だった(が、実際のところ同作の主役は最初からポパイだった)。翌年、かのヘイズコードのためにベティが大幅な修正を余儀なくされ、人気が衰えていくと、ポパイは彼女に代わりフライシャー・スタジオの大黒柱となった。ベティは1939年にスクリーンから引退した。
 ポパイのキャラクターは落ち着くまでに変遷があるものの、「何でもあり」なフライシャーの作風に合っていたといえる。
 
 本作『ポパイと船乗りシンドバッド』は、『ポパイ』初のカラー作品であり、当時の人気を受けてつくられた3本の「ポパイ・カラー・スペシャル」の第1作。通常の短編の3倍にあたる16分もある。プログラムピクチャーであるにもかかわらず、メインの長編映画のほうが本作のオマケであるかのように扱われたという話からも、『ポパイ』人気の絶頂ぶりがうかがえる。
 そしてその人気に応えるかのように、圧巻のクオリティをぶつけてくるのが本作だ。柔らかく滑らかに動くキャラクターたち、緻密に描き込まれた背景……それをカラーで拝めた観客は大いに喜んだに違いない。
 そして、お得意の「テーブルトップ撮影」もまた、カラーになったことにより更なる視覚的効果を上げている。これは何かというと、早い話が回転式のミニチュアセットを撮影して背景に使っているのだが、それによる奥行き効果はディズニーのマルチプレーンに負けず劣らず目覚ましいものだった。タネを知らぬ視聴者はまさか実写合成だとは気づかず、ただあり得ないほどの鮮明さに驚くばかりだろう。とくにポパイが洞窟の中を歩くシーンはすばらしい。