Oto

アパートの鍵貸しますのOtoのレビュー・感想・評価

アパートの鍵貸します(1960年製作の映画)
4.5
2度目の鑑賞なので細かく分析。

<1幕> 部屋を貸すことで出世する哀しき男。
・ニューヨークの俯瞰。早口のモノローグで金額・人数・数字を詳細に語る知的好奇心の高い人物。どうでもいい知の追求に集中するタイプ。万能感のあるBGMに合わせて作業するなどディズニー的なユーモアもあり。
(※人を一列に並べたらパキスタンまで届くとか、エアコンが付いて家賃が上がったとか、都会人は年2.5回風邪をひくとか、高速の早口で個人的な空想や理屈を捲し立てる映画は自分の脳内に近くてかなり好きだ〜長久さんの作品もそう)
・テーマの仄かしは中盤の「人間になれ」。『グランドホテル』は群像劇の予兆か。
・主人公は、保険大企業のオフィスで家に帰れずに残業する、計算に強い独身サラリーマン。上司による昇進をエサに自宅アパートをラブホテルとして貸しているので帰れない。
・帰宅後も約束の時間を過ぎ、隣人の医者は騒音や酒量を気にし、自身は孤独な乾杯という散々な1日。死んだら大学に献体するように頼まれる。部屋の電気をつけて回るのも視覚的に面白いし、時代の記録映像としても機能しているのが面白い。
(※上司の言いなりでうだつが上がらないという普遍的なテーマをこうやって特殊な設定に変えるべきなのか〜とワイルダー作品はいつも学びになる)
・映画のTV放送の間に番組サーフィンをして結局みないのは、せっかちさではなく暴力嫌いを伝えてるのか...。深夜にも酔って電話が来る始末(※ここで設定を完全に把握)。「誰と話してるの?寂しいわ?」「おふくろだよ」。お楽しみの上司と対照的に、公園で待たされて風邪をひいてしまう。
・エレベーターガールとの出会い(きっかけ)。セクハラ上司。彼女への好意の兆しとして、誠実さを持ち上げる。貸した上司は鍵を間違えて帰宅して実は家に入れなかった、鍵を社内便で交換。病気によるレンタルのキャンセル、仕事もそっちのけで予定の調整に追われるが、上司はオペレーターと不倫(悩みの時)。電話をもらった瞬間に流れ出す音楽、大量のティッシュを持ち昇進を期待して上司の元へ。エレベーターは人が変わるけどあなたは礼儀正しいと褒められて花をもらう。
・20分も話し中だったと秘書が愚痴、部長からは平社員がなぜ人気なのか、裏がないかを聞かれ、社内便の鍵がバレている。夜間学校の間に、着替え場所に貸したら噂が広まった。4人に貸していることを告白。点鼻薬が飛んでいく。風邪で汗が止まらない。映画のチケットと交換に、まさかの鍵を求められて、大量のティッシュを出して渡す。管理職に推薦してもらう。「腐ったリンゴが4でも5でも変わらない」=失礼ユーモア(ターニング)

<2幕>同僚を好きになるが、部長と不倫していて失恋。自室で介抱。
・もらったチケットでエレベータガールを映画デートに誘い約束するが、食事は断られる。家族構成や誕生日や住所を社内ファイルで知ってる、体重や病歴まで。(サブプロット)
・なんと、彼女のデート相手はチケットを譲ってきた部長。ひと月半ぶり、その間に髪を切った彼女。家族が帰省する夏限定の浮気だった。「このエビ、味が落ちたわ」。辛さからもう会わないと告げるが、(レコードのように)離婚に向けて動いてると返され、続く関係。部長の秘書が目撃している。約束を無視して、バッドの自宅へ。
(※そもそも妻と別れるつもりなら、人目を避けてるのも矛盾しているので、別れるつもりないことがわかる。彼女から言い出しているけど)
・係長に昇進して万能感のある行進。お互い持ちつ持たれつと言い、上司がみな会いに来て、部屋を貸さないと降格だと脅される。「歓迎します、ここになら」。秘書にバレないように部長からスペーアキーを要求される。忘れ物の割れた鏡を渡す。(お楽しみ)
・社内でクリスマスパーティー。社員みんなキスしてる。約束をすっぽかしたエレベーターガールのことも責めない。エレベーター使用停止にしてパーティー参加。秘書は彼女に忠告、部長は浮気を繰り返しているからやめておけと。自室で重役の帽子を見せるが放心の彼女、おどけて部長の家族の写真を見せたりデートに誘ったり。しかし割れた鏡を見て、彼も認識が一致して落ち込む。パーティーを途中抜け(ミッドポイント)

・バーで焼け酒、サンタも遠慮するほど。ストローを飛ばしてくる女にすら気付かないが、音楽を奢ってくれる。カストロに手紙を送ったけど帰ってこない、夫がキューバで罪を働き、2人とも孤独。飲むタイミングを合わせる。
・その頃、アパートの部屋で泣くフラン。浮気を追求するが逃れる(悪い奴らの出現)。「女房持ちとの恋に、マスカラは禁物なのに」。電車に遅れないように出ていく部長。「月曜と木曜だけの恋人、同じことを繰り返すのね」。プレコードをプレゼントするが受け取らず、男は現金を渡して帰宅。レコードを回して、メイクを直そうとすると睡眠薬を見つける。
・バーでチークダンスフル寂しい二人。店から追い出されて帰宅、女も付いてくる。自分は色魔だとホラを吹く。レコードが回りっぱなしで入れ替える、音楽に合わせて踊っていると手袋を見つけ、寝室に隠そうとするがフランを発見。帰れと言うが、睡眠薬を飲んでいる。隣の医者を呼び女を帰す。浴槽に運んで、吐かせて注射。痴話喧嘩をして他の女を呼んだと嘘をつき、医者はビンタ&コーヒー。意識を保つために、無理やり歩かせる。話しかけると「19階のバクスターさん」。君の生活態度の付けが回ってきたんだと誤解されてしかられ、「メンチュになれ」と言われる。(ボトム)
・翌朝、大家が訪ねて行進を責める。部長に容体と遺書の存在を伝えて世話するように電話するが、家族と過ごしていて断られる。自らが遊び人として風評を受け入れる。彼女が起きてきて謝られる、まだ滞在するように伝えて、歯ブラシを用意するとともに自殺防止で刃物を隠す。
・コーヒーを切らしていて隣室にもらいにいくと、スープを持ってきてくれる。フランは姉に電話しようとするが止める、落ち着いてからにしよう。部長の嘘には気付いているがまだ愛しているフラン。「犠牲者はどこ?この色魔が」「もっとちゃんとした人を見つけなさい」。
・遺書は現金で部長に返すことに。せっかくのクリスマスを楽しむために、カードゲームを一緒に始める。「わたしあきらめるわ」「男運が悪いの」。交際相手は4人の手で3人。経歴を話すが、人生が台無しだと悩む。部長の妻に手紙を書こうとするがやめさせる。悲しむ隙を与えないように、トランプを渡すが弱く、眠ってしまう。トランプの計算も高速の主人公。
(※この献身的で報われない主人公、めちゃ自分が重なって辛いけど元気もらえる)
・そうしている隙にもアパートにやってくる上司。フランと付き合っていると勘違いされる。医者にも待っている女性を目撃される(※「勘違い」の連鎖、『情婦』や『お熱いの』にも通ずる作家性)。ずっと髭剃りクリームをつけたまま。窓を開けるがバカなことをするなと忠告。「あなたに恋してればよかった」「物事は成り行きだからね」。(心の暗闇)
・告げ口をした秘書を解雇、部長は補償を申し出るが、心優しい男は励ましの言葉を頼む、秘書は盗み聞き。何も無かったことにすると約束。バッドのことは「看護夫」呼ばわり。秘書は部長の妻をランチに誘う。(※復讐をして去っていく強い女性像)
・買い物から帰ると家からガスの匂い。自殺を疑うが、お湯を沸かしていただけ。バッドは嫌と言えないタチだとフランに伝えるが、利用されているのはフランも同じ。「未練も洗浄できればいいのに」。バッドも自殺しようと膝を撃ったけど3週間で治った(作り話?)。看護夫呼ばわり。ケーキを買ってきたバッド。
・心配して会社に乗り込むフランの義兄。上司たちは『失われた週末』の引用。見かけていた上司は、義理はないと彼のことをバラしてしまう。
・台所ではラケットでパスタの水切り。ラケットで水切り、ろうそくをつけてパーティー。ご機嫌でロビンクルーソーを気取っているが、義兄が迎えにきて、医者がやってきて睡眠薬を飲んだのは「自分のせいだ」と罪をかぶるバッドは殴られる。「おばかさん、さよなら」おでこにキス。「身から出たサビだ」「いいんだ、ちっとも痛くない」。
・顔を汚しているので、サングラスをして万能感出社。結婚へ踏み切ろうとフランへの告白の練習をしながら部長のもとへ向かう。しかし、離婚を決意した部長から逆に結婚の話をされる。さらに管理職へと出世するが実感が湧かず、彼女と結婚してあげてほしいと伝える。
(※ここまで来ても、優しすぎてつねに他人が主体の主人公)
・フランと遭遇、「君は彼を誤解してた」「利用したのはぼくの方だ」「夢が叶った、お互いに」。デートをすると嘘をつく。けりがつくまで部長には会わないというフラン。
・大晦日、アパートの鍵を再び要求する部長だが、断る。しぶしぶ鍵を放るが、それもトイレのもの、「医者に従って、メンチュになる」と告げて去る。帽子も清掃員に渡す。(ターニング)

<3幕>
・自室で引越しの準備。医者から飲みに誘われるが断り、彼女の治療費はいらないと言われる。「女は使い捨てだ」と強がる。ラケットのパスタを眺めて思い出す。
・中華料理店で門出を言う二人、部屋を貸さず退社したバクスターの話をすると、フランの連れ込みは許さなかったと。「すごい。物事は全て成り行きだね」。スペルできない。
・店を去って、走るフラン、部屋から聞こえる銃声。しかしシャンパンの音。「別の街、別の仕事、好きにやる」「私もよ」。カードを始める、「部長には毎年ケーキを送るわ」。「愛してるよ」「黙って配って(shut up and deal.)」
(※本当に大切な人ができたことで、保身のためのお人好しをやめたことによって、二人は結ばれる)


<10の学び> https://youtu.be/t8EE7q0j2Qg
①対話では、キャラにセリフを盗ませる
・キャラの個性のあるウィットの利いたセリフ。受け答えの面白さで、緊張感と興味を持続。
・登場人物に台詞を盗ませる。”cookie-wise”(クッキーのように砕けて当たり前の人生)

②語るな、見せろ
・観客の知性を信じる。熱を出していると言わずに体温計。上司は鍵を貸せと直接言わない。割れた鏡で関係性に気がつく。自殺すするつもりだとは言わない。掛けられたドレスで邪推。パスタを見て思い出す。

③考えられる最悪の状況に追い込む
・眠りにつくところで上司から電話。不倫は秘書に見られている。眠っているフランを上司に見られて誤解される。夕食を食べようとしていると兄がやってきて医者が殴る。

④セットアップ=フリと伏線回収
・割れた鏡、事前に部長に渡している。失恋で銃で自殺しようとした経験があるという話があって(医者からもシャンパンをもらって)から、外から聞こえる銃声。

⑤ミッドポイントが結末には大事
・二つのことが起こる:危険度が上がる、敵対勢力が強くなる。物語がシリアスになるときは本質的な物語の変化。
 前半:バッドはフランに夢中で出世に満足。フランは部長と良い関係性を築きたい。
 ミッドポイント:秘書から部長の浮気癖を伝えられる、バッドは割れた鏡でフランの恋愛に気づく。
 後半:問題への対処。フランは部長に失望、バッドはフランへ落ち込む。睡眠薬によって危険度が増す。バッドは部長という敵の支配下で脅されたり、兄に責められたりする。
 解決:バドは会社を辞めて表面上のキャリアにおさらば。フランは部長の元をさってバドのもとへ。

⑥逆転:本質的に予期しない結果
・まず期待を抱かせる。昇進かと思ったら、アパートの鍵のことがバレている。さらには、部長も鍵を欲しがる。他にも、リハーサルをしまくって結婚を部長に伝えに行くと、逆に結婚を伝えられる。

⑦行動を通して個性を明かす
・上司:フランのお尻を触る、金曜日に払うよ、タクシー代をケチる…。フラン:鏡は割れている方がいいの、盲腸のことは内緒、オフィスにばれたらいけないからね。部長:プレゼントに現金、看護夫のバクスター、息子のセリフにぎくり。バディ:暴力シーンは嫌い、遺書を見られないように隠す、ひとりで乾杯、2日間は安静に。

⑧ドラマチックな皮肉:キャラが気付いていないことを観客が知る
・聴衆にサスペンスと共感を与える。妻と離婚バナナトーク ルウつもりと言うけど、週何回か会うだけで離婚を切り出される。バドはフランの関係性を知らない。隣人はバドが毎日連れ込んでいると思っている。フランはバドのアパートにいると気付いていない。部長はバドとフランの関係性を知らない。

⑨サブテキスト=隠された言外の意味や性格
・「チケットを交換したい、君は察しがいいと聞いている」「あなたは中華料理屋で若い卵のまま」。キャラクターが本当に言いたいことは隠す。

⑩感情のジェットコースター
・バドはポジティブとネガティブの間で絶え間なく揺れる。出世、帰れない、睡眠、電話がきて風邪、昇進、部長にバレる、映画デートの約束、来ない、部屋の移動、鏡を発見、バーでの出会い、自殺未遂のフラン、介抱のトランプ、兄に殴られる、結婚の計画、部長からの結婚、最大の昇進、孤独で退職して荷造り、戻ってきてハッピーエンド。


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面白すぎる。深刻で切ないテーマを笑いに昇華して伝える、嘘が上手な群像劇。自分が作りたいのはこういう物語だと久々に感じた。大好きな『ラブアゲイン』の源流はこれか。
脚本が面白すぎて罪悪感が湧いてきて、途中で止めて自分の生活と向き合い直してしまった。『情婦』もだけど日常的で限定的な場所でもこれだけ魅力的なシナリオは作れる。
『Stranger Things 3』のラストでNancyが挙げていたという軽い動機で観たけど、こういう乱雑な出会いを大事にしたい。。

テーマは、なぜか不幸な選択を自らすすんでしてしまう人の宿命、だろうか。最近だと『愛がなんだ』に近い。
主人公の自己犠牲が彼女のために見えて実は自分のためだということをグレーにして進めているのが上手。応援できる限界を保ってる。
キャラが全員クズというか、そもそも人間は全員クズなのかもしれない。フランもダメな部分は大いにあるので男尊女卑とは感じないけど、確かに表面的に見ると頭脳労働は全くやっていないし、上司は女は金を与えとけば良いだろうという姿勢。むしろそういう資本主義を批判的に描いているのが今作だと思う。
なのでラストの急激な変化からの結末は、簡単にも見えるんだけど因果応報を感じて許せてしまう。感動というよりは多幸感。


ここからは自分のためのメモ。勉強になることだらけだった。
伏線や嘘がとにかく上手。非言語的な小道具の描写が良いと思いきや、セリフもめちゃめちゃ良い。
関係性の隠し方と見せ方が絶妙なんだろう。驚きと笑いと切なさが共存している。
・こんなクソ上司ばっかなら転職すべきだろ〜と序盤に思っていたけどいつの間にかダラダラと展開
・その上でラストで原点回帰。そもそもはバド自身の問題であるという点を曖昧にしておいて最後で回収
・エレベーターガールが好きなんだろな〜というのも徐々に示す
・昇進の面接と思いきや部長も「部屋を貸してくれ」の依頼
・しかもその相手がエレベーターガールという関係性の交錯
・秘書の盗聴、彼女と部長の関係性は伏せる
・小道具(割れた鏡)がきっかけで気づく。それと同時に割れた鏡に二人のくだけた心を表現(チェーホフの銃)
・隣の部屋が医者の先生で助けを求める
・クリスマスという家族と過ごす日だからこそ成立する展開
・家で寝ている良いタイミングで別の女を連れて変える
・小道具(レコードや手袋)を前兆として示す。笑いと緊張感の同時進行
・騒音がきっかけで隣人は色男と誤解。奥さんの「浮気男はやめとけ」が奇しくも説教として機能する
・覚醒させるための行進で大家に怒られる
・兄が登場するも会社のために事実は開かせないので罪を被る
・自殺してもおかしくない状況、自殺経験の話をした後でのガスや銃声(シャンパン)による笑いの天丼。しかもシャンパンは上司が置いていったもので完璧な伏線
・ケーキを年一回送るというセリフの天丼


参考になりそうな手法。行動によってキャラの性格や感情を見せるのが上手い。
・冒頭でキャラの個性を明示。数字の羅列で保険という職だけでなくバカ真面目な性格も伝える
・どうして部屋に帰れないんだろうという謎を引きずったまま進めて、そっか上司に利用されてるのか、ラブホもない時代かと明かす
・予約変更の調整電話に追われるシーンは彼の性格がにじみ出ている
・部長に「腐ったリンゴ」といってしまう率直な性格に笑える
・傷心しきってストローを飛ばされても気づかない。幸せなラケットとの対比
・不倫の象徴としての小道具(マスカラや口紅)
・ディゾルブと暗転の使い分け。短期か長期か、場所の飛躍か時間の飛躍か、など
・悲しみを持続させないためのカードゲーム


雑多なメモ
・残業なくす流れは良いといえど皆で一斉に帰るのキモいな
・CM飛ばす件、逆に今ではありふれすぎていて笑えないのが凄い。当時はCMが長かったらしい
・バドのストーカーをフランが全く怖がらないの違和感
・Shirley MacLaineが美人すぎる。
・1960ってサイコの年って考えると意外と最近。機械式のスタビを使っていたんだろうか
・サイテーの男(部長)の描写が絶妙、離婚をそそのかしたり。今でもモテてる人がモテるのは変わらない
・いい人はどうでもいい人も変わらない
・昏睡の演技がすごい。医者も叩きまくってるし
・キューブリックという名前には意味があるのか


解説を聞いて
・ハリウッドが最も機能してた時期の映画
・当時はホテル探偵がいて風紀を保っていた
・ビリーワイルダーはSex Comedyばかりで問題になっていて当初は評価も悪かった
・アカデミー賞はハリウッドの映画関係者の賞、批評家とは別
・ジムキャリーやトムハンクスやビリークリスタルなど強迫のコメディには影響大
・オフィスは偽の遠近法による巨大化で小学生が座っている(『群衆』の真似)。トローネルはユダヤ人であることを周りが隠すくらいの天才美術監督。
・ウルフオブ、大統領の陰謀、TVコメディ(フレンズ等)も真似している
・『逢びき』を観て「鍵を貸す人を主人公にしたら」という発想で思いついたが、しばらく進まず。ハリウッドPが実際の報道で「部下の部屋を借りて不倫していて股間を銃で撃たれた」のを観て、これはいけるとなってアイデアを合体した。『昼下りの情事』もこの事件が元
・小道具やセリフの天丼は、I・A・L・ダイアモンドの手柄、軽快なコメディアン。彼と組むまではビリーは暗いノワールばかり撮っていた(失われた週末、サンセット大通り、地獄の英雄)が、コメディの巨匠となってマリリンと撮っている。
・三谷幸喜やキャメロンクロウは大好き。あの頃ペニーレインとは、ほぼ同じ構造。重役用トイレは『ロボコップ』でも出てくる
・Shirley MacLaine、日本人役をやるような特殊な顔。元バレリーナからコメディエンヌに。日本語が話せて、娘は幸子。ケツを触ってるのは監督自身。
・Jack Lemmonは珍しい弱々しい俳優、ハーバード卒のエリート。
・チェーホフの銃=「画面に映る小道具はすべて使え」の精神。https://ja.wikipedia.org/wiki/チェーホフの銃
・ヘイズコード。サイレント時代のハリウッドは酒池肉林やりたい放題で、ユダヤ系が始めたけどカトリックの人が起こり始めた。犯罪者が買ってはいけない、セックスを描いてはいけないなど。ビリーワイルダーはこの抜け目を行った。『お熱いのがお好き』も同性愛なのでアウト
・今作も婚外交渉、自殺はタブーなので、批判されまくった。自殺する人は頭の狂った人として扱いたいというキリスト教の思惑。そもそもはアメリカやハリウッドのタブーを描いていた監督だけど、それをコメディに昇華して隠せるようになった。
・裏テーマのカストロもアメリカの資本主義の怖さとの対極。ビリーワイルダーがアメリカ人ではなく、脚本はネイティブに助けてもらっていた。観光客の視点でアメリカを観ていた。共同脚本もルーマニア人、美術もユダヤ系、音楽もイギリス人。
・医者もユダヤ系の名前で英語が拙いけど、必死に他人を助ける。メンシュはドイツ語。ヒトラーから逃げてきた自分を投影している。そもそもは新聞記者なのでハリウッドを批判的に見れている。ハリウッドに逃げてからはエルンスト・ルビッチの弟子になっていて、観客の心を動かすコメディ術を学んだ。「自分の尊敬するOOならどうするか」の視点は大事
・コメディ術「2+2=4」と言ってはダメで、「2+2=?」と聞いて観客が4!と答える。鏡の正体をセリフで言わない。
・I love youへの返しが「Shut up and deal」で秀逸。トランプともかかっているけど、「ごちゃごちゃ言わずに取り組む」の意味もある。
・一方で影響された『ザ・エージェント』『エリザベスタウン』などは都合の良い女(妖精)への批判を受けた。
・髪を切ったのは上司への失恋なのに当人はそれに気づいていない。恋愛は3回なのに手は4回。変な帽子への失望
・外ロケがほぼない。実際にレモンが風邪をひいていたのでやめた。建物はほとんどセットで、徹底的にコントロールした。テイク数が多くて、各シーン10テイク以上、焼くのは1テイク。ハリウッドシステムが好きで、アドリブさせない。飲んで帰る長回しやくいぎみのセリフなど、ちょっとしたこともすべてシナリオ。無駄がない、徹底的なリハによる「Well-made」。
・それがその後のニューシネマやヌーベルバーグの流れにはとても叩かれた。完璧さゆえに、偶然性がない。歌舞伎や落語などの芸事に近い。『俺たちに明日はない』はアドリブだらけ、撮影所はほぼなくて外ロケだらけ。何が起こるかわからないし、面白くなったものをつないでいる。
・現在はアニメやVFXの文化が広まり、むしろ完全制御のwell-madeに回帰している。コメディをここまで計算して撮れる人は普通はいなくて、現在はHangoverなどアドリブが多い。
・Takerは取っていく人。Giverは与える人。この格差が生まれるのが資本主義。恋愛の話に見えて搾取の話。反逆を起こす皮肉。エレベーターの上下は社会の階級の象徴。
・監督自身が母をアウシュビッツで殺されている。人間や国家への不信が作風になった。Music Manは詐欺師の話で、深夜の告白も保険会社の話。地獄の英雄はジャージー・ボーイズにも与えたが、暗すぎて売れなかった。この暗さはキャメロンクロウや三谷幸喜にはない。


・ビリーワイルダー 10のルール
https://medium.com/the-1000-day-mfa/10-storytelling-tips-from-billy-wilder-1d9d5bdb5760
1.観客は気まぐれだ
2.首根っこをつかんで離すな
3.主要な登場人物の行動のベクトルを滑らかに
4.どこへ向かうのか知っておけ
5.プロットを隠すことに緻密で優雅になるほど、作家として上達する
6.第3幕(転結)に問題があるとすれば、実際にはその問題は第1幕(起)にある
7.ルビッチのコツ「観客に2+2を計算させろ、そうすれば君を永遠に愛してくれる」
8.ナレーションを入れる場合、すでに観客が見たものに言及しないように気をつける。今見ているものに加えるのだ
9.第2幕(承)で起こる出来事が映画の結末のきっかけである
10.第3幕(転結)は最後の出来事までテンポよくアクションに。だらだらとうろつくな *カットを細くして余韻を残さない

*映画の1幕(=部屋を貸しまくる)/2幕(=彼女が好きになったのに上司との関係に気づく)/3幕(=二人の態度が変わっていく結末)
https://ja.wikipedia.org/wiki/三幕構成
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