半兵衛

ガス人間第1号の半兵衛のレビュー・感想・評価

ガス人間第1号(1960年製作の映画)
4.3
小学生のとき特撮ファンだった自分は図書館で借りた特撮本のなかから興味のある作品をリストアップして近所のレンタルビデオショップで借りていたのだが、そのなかで本作を見たときそれまでの作品とは違う「ドラマ」が備わっていることに気付きショックを受けたことをよく覚えている。

それから三十年近くたち改めて見直すとさすがにその衝撃は薄まってはいたものの、それでも『オペラ座の怪人』を日本の風土に合わせて作り直した作風や怪物がゆえに疎外され追い込まれていくガス人間の悲哀を表現する東宝特撮と黒澤明作品両方に頻繁に出演する土屋嘉男の熱演、そして特撮作品では珍しい異形との恋の結末を知りつつも覚悟してその道行きを歩む八千草薫の美しくも気高い存在などが上質なドラマとして結びつき成人になっても見ごたえのあるドラマとしての印象を受けた。あと特撮作品でよくあるアダルトな描写もよく効いていて、八千草薫が金をちらつかせて芸人を舞台に協力させたり登場人物たちがぼやく発言がドラマを引き締めていることに気づかされる。

そしてガス人間が世間を騒がせたとたん模倣犯が出現したりガス人間が現れる場所にひやかすためだけに入ってくる人間が出てくるという世間の流行りへ乗っかりたい心理や「怖いもの見たさ」心理をよく突いていることもこのドラマの優れているところだと思う。だとするとガス人間はさながら現在の迷惑系YouTuberに通じるものがある、一般人は近づきたくないけれどそれに興味がある人間は必ず存在して更には迷惑系だから世間からひんしゅくを買わないと攻撃されたりボイコットされたりする点もそう。

そして愛など様々な感情が交差した末によるラストの大炎上からの、ガス人間の結末へと至るラストの流れが完璧。

ちなみにガス人間が銀行強盗する件があるのだが、大人になってから改めて見直すと確かにガス化して金庫内に侵入したりすることは可能だけれどお金はどうやって運ぶのかという疑問点が改めて浮かび上がる(そういえば本編でもお金を盗む描写はなかった)、お札数枚くらいならなんとか持っていけそうだけれど大量の札束は何回か往復しないと持っていくのが無理なような。

宮内國郎によるスコアも作品を盛り上げるけれど、流用しているせいか時折『ウルトラマン』を思い浮かべてしまう(例をあげるとラストで流れる名曲はジラースの最後に使われている)。
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