山浦国見

沖縄10年戦争の山浦国見のレビュー・感想・評価

沖縄10年戦争(1978年製作の映画)
3.3
第二次世界大戦前には存在しなかった沖縄ヤクザ(アシバー)が、本土復帰を前に大団結し、本土ヤクザの進寇に備えるものの、次第に内部分裂していく。

 監督は松尾昭典。東映での監督作品としては、本作のみ。

登場人物

金城(松方弘樹)
沖縄やくざ。首里派。伊波兄弟とは戦中からの幼馴染。

伊波朝勇(千葉真一)
沖縄やくざ。胡屋派。朝市の弟。

伊波朝市(佐藤允)
沖縄総連琉栄会理事長。胡屋派。中原とは知り合い。

宮国(深江章喜)
沖縄総連琉栄会会長。首里派。朝市と対立。

中原(藤田まこと)
本土のやくざ、関西錦連合桜木組系中原組組長。沖縄生まれ。

桜木(小池朝雄)
関西錦連合桜木組組長。

その他にチンピラ役として、にしきのあきらや最近何かと話題な「笑点」の座布団運びの山田隆夫、渡辺篤史などが熱演を見せてくれる。

この映画は史実でいうところの「第四次沖縄抗争」をモデルとしている。本土復帰を直前に控えた沖縄に山口組が進出を始めたのを切っ掛けに、本土やくざに対抗するためアシバーたちは「沖縄連合旭琉会」を結成し、大団結を図る。しかし、急な同盟は逆に歪みを強める結果となり、内部での対立が激化して行く。

その隙に山口組は沖縄に息のかかったやくざ達を着々と進出させ、アシバーvs山口組沖縄支部との戦いが本格化。沖縄県警もこの抗争には手を焼き、やくざが発砲してきたら射殺しても構わないという指令をだすほど。警察も摘発の勢いを強めて、抗争の火は次第に鎮静化。その規模が小さくなって行く。そして、結局アシバーと山口組は和解。山口組の沖縄撤退という形で 終結した。

主人公の金城と朝市・朝勇兄弟は幼馴染という設定。沖縄戦が激化する中で偶然に出会い、その時に日本兵に僅かな食糧を奪われた事から、本土に対する怒りを持ち続ける三人。そんな彼らは戦後の混乱の中、やくざとして頭角を表して行く。

本土復帰と沖縄海洋博の利権を巡り、本土やくざが沖縄に進出してきたため、アシバーたちは連合を結成。しかしながら大きな二つの派閥を含む集団は一枚岩になる事ができず、首里派(会長や金城など)と胡屋派(伊波兄弟中心)の対立が始まり、そこに本土の関西錦連合やくざたちの介入が発生。内部抗争中に、首里派の宮国が殺され、胡屋派の朝市も大怪我をしてしまう。

愈々金城と伊波兄弟との間にも銃弾が飛び交うようになり、最終決戦の中、気付かぬ朝勇の背中に金城はライフルの照準を合わせる…。

史実をアイデアの基にしていることから当然、巨大な本土やくざの沖縄進出→アシバー達の団結→内部抗争→海洋博利権を絡む本土やくざの陰謀→本土やくざとアシバーの抗争、といった一連の流れも、『沖縄やくざ戦争』と似ており、ともに松方弘樹と千葉真一が重要な役を担当しているところも同じ。特に千葉真一は『沖縄やくざ戦争』では本土への怒りに全身の血を煮え滾らせている危険な男・国頭、『沖縄10年戦争』では髭にジャンパーのワイルドな出で立ちで、単身でも敵と戦い続ける男・伊波朝勇を演じており、どちらも素晴らしいキャラクター性で映画を引っ張って行く。対して松方は両作ともに千葉の盟友を演じ、彼と比べると少し冷静な印象を与える。また、沖縄という事からか、両作ともラストはモーターボートが登場し、海が銀幕いっぱい広がる。

当時の東映は、広島や大阪、九州など実際に起きたやくざの抗争を次々と映画化し、元ネタに困っていたこともあり、漸く沖縄に辿り着いた感がある。しかし、他の映画には中々見られない、「沖縄/本土」「周縁/中心」の関係性が取り上げられ、更に両作で主演を務めた松方の演技も良さることながら、千葉真一の野性味溢れる演技も楽しめる、エンタメ性に富んだ映画珍しくも見応えのある作品に仕上がっているが、残念ながら本作はDVD化されていない。
山浦国見

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