しんご

バタフライ・エフェクトのしんごのレビュー・感想・評価

バタフライ・エフェクト(2004年製作の映画)
4.8
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(小説版)には映画にないこんなシーンがある。1955年に戻ったマーティがドクに会った際、彼はマーティに今日1日何をしていたかと問う。「映画館に行ったけど、払ったのはチケット代の50セントだけ」とマーティ。それに対してドクは、「50セント払う➡その金のおかげで本来は潰れる筈だった映画館の経営が存続する➡存続したその映画館である日火事が起こる➡火事で焼死した若者の中に将来大統領になる男がいる」と続け、タイムパラドックスの怖さとそれに向けて軽率な行動をしないようにマーティを諫める。映画版で没になったこのテーマを20年後、深く綺麗に昇華させたのが本作だ。

「バタフライ・エフェクト」とはどこかの蝶の羽ばたきが世界の裏側で嵐を起こす効果、すなわちお互い何の関連もない出来事が実はどこかで繋がっている「カオス理論」の一種を指す。

本作はそのカオス理論とタイムリープとロマンスが見事に調和した作品であり、個人的にはSFジャンルで5本の指に入る傑作だと思う。ちなみに、自分はこの映画が好きすぎて「バタフライ・エフェクト」というメーカーのメガネを愛用している程です笑。

幼少期の記憶が一部欠落しているエヴァンは成人した後過去の一定の時点に戻れる能力があることに気づき、愛するケイリーのため過去を変えようとする。悲しいのはケイリーを守るためにエヴァンが奔走する度、周りの誰かしらが不幸になっていること。幸せは誰かの犠牲の上に成り立つという世の非情さを暗示するようなメッセージが胸に刺さる。

その奔走の過程でエヴァンの欠落した記憶が何だったのか解明していく伏線の回収の仕方が素晴らしい。ストーリーを追うごとに頭の霧が晴れていくと同時に、物語の着地がどうなるのかという不安も募ってくる。

...からの、ラストのあの展開には声が出なくなる程やられた。エヴァンがケイリーを愛するゆえの選択なんだけど、あの「ハッピーエンド」はあまりに切な過ぎる。バックにかかるOasisの「Stop Crying Your Heart Out」がまたその切なさを劇的に盛り上げていて泣けた。

SFというジャンルだけど、最終的には「選択した今を精一杯生きよう」という深いテーマがある映画だと思う。われわれはエヴァンと違って過去に戻れない分、より悔いのない様に「選択して」生きなくてはね。
しんご

しんご