「まるで…映画みたい…」
…と彼女は言った…
ジュン…
学生時代のいわゆるおれたちの「マドンナ」的存在だった女性…
卒業してすぐに結婚…どこか遠い町へ行ってしまった…
三十数年ぶりの再会…
おれたちはその分きっちり歳をとったけどジュンはやっぱり綺麗だった…
「いつ帰って来たんだよ?」
「去年…かな?」
「水くさい!みんなとまた飯でも行こうぜ…旦那は一緒?」
「彼…死んだのよね…」
「え?まじ?…」
深くは聞かなかったがその後の話のニュアンスからして旦那の死はひょっとすると自殺かもしれないな…とおれは思ったのだった…
カフェでコーヒー1杯分の話をした…
ジュンはちょっと寂しそうに…
「あの時…彼について行かないで…この町に残ってたら私の人生どうなったかな?」…と言った…
「ジュンが考えるのはこれからどうするか?だけでいいと思うよ…『あの時こうしていれば…』はいくら考えてもどうなったかは誰にも分からない…「バタフライ・エフェクト」だよ」
「バタフライ・エフェクト?」
「バタフライ・エフェクト」
日本でいえば「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな…蝶の羽ばたきが回りめぐって地球の反対側で嵐を起こすかも…ってカオス理論…
だから過去をもし変えることが出来たとしても思い通りの今にはならないってこと…考えるだけ無駄だよ…
この映画の主人公…エヴァンは過去を修正して今を変えようとする…
しかし、「時間のバタフライ・エフェクト」が起こり彼の思うような現在には決してならない…
監督はファイナルデッド・シリーズの人なので公開当時は「B級」っぽい感じがしたが、そのストーリーのあまりの面白さから時と共にカルト的名作として定着した…
「蝶の羽ばたきか…まるで…映画みたい…」
…とジュンは言った…
「いやホントにあるんだよ…そういう映画…」
ちょうどエンジンをかけたのでおれの声は聞こえなかったみたいだった…
「じゃあ…またね」
フルフェイスのシールドを音を立てて閉じるとスモークアクリルで印象的な彼女の目は見えなくなった…
大型バイクの腹に響くエンジン音を残して彼女は暗くなり始めた町に消えていった…
もしも…もしもだよ…
あの時…