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アラジンのninekoのレビュー・感想・評価

アラジン(1992年製作の映画)
4.8
つくづく完璧な作品だと思う。ハワード・アシュマンという稀代の才能を(永遠に)失ったディズニーの底意地がもたらした奇跡のような一作であり、ルネサンス期の最高傑作と呼ぶにやぶさかでない。

何度観ても"A Whole New World"とその前後の場面で泣いてしまう。魔法の絨毯で空を飛ぶシークエンスの美しさ、曲の素晴らしさは言うに及ばず、ボーイ・ミーツ・ガールをなぞる手つきの繊細さは、本来ディズニー作品というものが基本的には子供向けであることを忘れそうになる。アラジンが抱える自信の欠落、それゆえの見栄っ張りと往生際の悪さ......恋をした相手にも(いや、恋をした相手だからこそ)ありのままの姿をさらけ出せない彼の姿は情けなくも滑稽だ。彼の心の美しさを知る観客は同情さえするだろう。しかしジャスミンの方は、目の前にいる王子の格好をした青年が、本当は「彼」である可能性を心のどこかで信じ始めていて、それが確信に変わった瞬間、アラジンとの冒険に出ることを決めるのである(ここで一番泣く)。

いかにもディズニーらしく、2人は最初から「運命の相手同士」として物語に選ばれている。しかし、ジャスミンがアラジンのありのままを最初から受け容れている一方で、当のアラジンはありのままの自分では愛してもらえないと思い込んで独り相撲を取ってしまっている。そんな歯がゆいすれ違いは、やはりディズニーらしく冒険と魔法でカラフルかつポップに彩られながら、ぐうの音も出ないほどのハッピーエンドに昇華されるだろう。本作で象徴的に扱われる「自由」には、アラジンによる自意識の克服も含まれると、僕は本気で思っている。『アラジン』はディズニー最高の恋愛映画であり、何より青春映画である。
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