麩

クワイエットルームにようこその麩のレビュー・感想・評価

3.6
自分も閉鎖病棟に入院してたので、
思い出が入ってきてどうしても高評価してしまう。
清濁併呑じゃないけど、めちゃくちゃなことも何もかも全てを巻き込んだ竜巻みたいな作品で、そのラストの苦々しい爽やかさに感じるやるせなさがいい。

これまでの全てをゴミ箱に突っ込んで、前を向いて歩き出す主人公と、
タクシーの窓に流れる景色と、音楽の爽やかさ…END✨かと思いきや、
最後のアドレスが「life is happy@loop.com」なのウワーってなる。
まともに見せかけてずっと出たり入ったりしてる女が設定したのが「ライフイズハッピー」っていう切な苦しさといじらしさと情けなさ。
そして@の後が「ループ」っていう苦さ、黒さ。
ブルジョワなサエちゃんの親がサエちゃんにやらせるパズルの絵柄といい、松尾スズキの人生観というか、人間観みたいなものを感じる。

松尾スズキの演劇作品たちがかなり好きなので、これも最初から最後まで松尾スズキらしさ全開でよい。
松尾スズキの本は大半がめちゃくちゃなことをしてて小ネタの応酬なんだけど、本当に言いたいことを言う時こそそういうくだらないユーモアで包んで書くのが松尾スズキらしさだと、個人的に思う

明日香の「鬱陶しさ」身につまされる。精神病んで自分のことしか見えなくなってる状態の人間って、鬱陶しいんだよね、そうなんだよねえーーー
でも、ここに映るそんなうっとうしい人たち、生から逃げようとしている人たちから、逆に強く強く発せられる生のにおいやエネルギーが好き。

病棟の人たちからひしひしと感じる「この場所にしがみついている」感じが本当に鏡で自分を見てるかのようだった。みんな病気の後ろに隠れて、入院して社会から逃げて、期限つきのその場限りの毎日を過ごしているこの感じ、自分が閉鎖に入院してた頃を思い出す。
この物語に出てくる閉鎖病棟や患者は全然リアルじゃないけど、描かれてる本質はすごくリアルだと思いながらみた

明日香の言ってた「てっちゃんは面白い国の住民だからわからないよ」っていうのすごく共感できる。わたしもつまらない国の住民だから、面白いの呪いから逃げられない

このクドカン、かっっっこよすぎる〜〜〜〜〜〜〜〜
麩