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アバンチュールはパリでのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アバンチュールはパリで(2007年製作の映画)
3.9
 2007年初夏、アメリカ人留学生と弾みでマリファナを嗜んだソンナム(キム・ヨンホ)は、彼の逮捕の知らせを受け、警察の目から逃れようとフランスのパリへ飛ぶ。故郷に新婚妻(ファン・スジョン)を残し、憧れの地に降り立った男は、空港に降りた瞬間から不安でタバコが手放せない。火を貸してくれと強請る男は、「ここでは気を付けろ!!」と絶妙な忠告をする。8月8日、韓国人の宿主(キ・ジュボン)が経営する民宿に泊まった男は、新しいフィリップモリスにも気持ちが晴れることはない。パリに到着して5日目で、男は極度のホームシックに陥り、韓国に残した妻に電話をかけ、ひたすらメソメソする。絵描きのソンナムは数週間経っても、絵を描くテンションになれないでいる。そんな彼の様子を見かねた宿主は、パリ観光の案内役としてヒョンジュ(ソ・ミンジョン)という留学生をソンナムに紹介する。クールベの「世界の起源」の絵をしげしげと眺めた男はヒョンジュを通り過ぎ、やがて彼女の友人でルームメイトの画学生イ・ユジョン(パク・ウネ)と出会う。

 うだつの上がらない男が故郷から旅先へ出かけ、やがて運命の女と出会うというホン・サンス映画の骨子は揺るがない。それに加え、今作ではエリック・ロメールの映画のような日記的な叙述スタイルが新味を与える。マリファナの恐怖に怯える自閉症気味の男は、やがて太陽のように溌剌とした自由奔放なユジョンと出会うことで、生きる気力を取り戻す。それと共にソンナムの自分探しの旅は、10年前に付き合っていたミンソン(キム・ユジン)との出会いを経て、奇跡のようなロマンスが始まる。側溝に捨てられた犬のフン、公園の片隅で行われる太極拳、6回中絶した元カノの退廃的態度、ひな鳥が落ちた撮影現場。ピンク色のタオルケットからうっすら覘く彼女の綺麗な脚に、男は衝動的な行為にひた走る。男の癖にという年下女の冷ややかな侮蔑の態度、元カノやヒョンジュの精一杯の強がりと嫁の嘘、言葉が通じず買えなかったコンドーム、好奇心で昇る螺旋階段、割れた白磁、砂の上に捨てられたゴム紐、窓に映るイノシシの鼻。青い空にもくもくと立ち並ぶ雲の絵は、ソンナムの夢という奇妙な罪悪感を相まって巧妙にティルト・アップされる。据え置かれたカメラのあざといズーム・アップとズーム・アウト、90°パンの巧妙な使用は反復を繰り返し、ホン・サンス映画独特の味わいとなる。
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