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マンハッタンのpicaruのレビュー・感想・評価

マンハッタン(1979年製作の映画)
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『Manhattan』

ウディ・アレンのモノクロ映画。
今まで観てきたウディ・アレンの映画はカラー作品ばかりだったけど、モノクロでも彼の魅力は顕在。
むしろ、引き立つような気さえする。
モノクロの映像がウディ・アレン色に彩られていく過程を楽しめるのだから。

「ニューヨークに住みたい!」

本作の感想はこの一言で済むだろう。
それくらい、最初から最後までアレンのニューヨーク愛で満ちている。
「好きな街で映画を撮る」のではなく、「好きな街を映画にする」とはこういうことなのか、と思い知る。
高層ビル、道路を走る車、川に架かる巨大な橋こそキャラクター性を帯び、街の喧騒の中にいる人々は背景として馴染んでいく。
もし、いつかニューヨークに行くことがあったら、ウディ・アレン映画のロケ地巡りだけであっという間に一週間が過ぎてしまうだろう。

ウディ・アレン映画最大の魅力はなんといってもその脚本力だが、本編でも映画ファンを喜ばせるセリフがたくさん登場する。
逆に言えば、それが映画ネタだと気付けるくらいには数多くの映画を観てきたのだという自負とともに、ちょっとうれしくなる。

例えば、ダイアン・キートンが演じるジャーナリストの女性・メリーが別れを告げられるシーン。
「そうね、電話の声の調子でわかったわ。『2001年』のハルみたいで」
ここでキューブリックの『2001年宇宙の旅』を出してくるとは(笑)
思わずクスッと笑ってしまう。

さらに、ウディ・アレンが演じる主人公・アイザックが17歳の恋人のトレイシーについて
「彼女は『大いなる幻影』をテレビでやるって、と電話してくれた」
とうれしそうに語るシーン。
なるほど、アイザックは『大いなる幻影』が好きなタイプなんだなぁ、と納得し、想像も膨らむ。

マンハッタンで繰り広げられる人々の些細な会話、(でも本人たちにとっては重要な事柄)を、丁寧に脚色し、面白おかしく転がし、いつの間にか人生観に発展させた上で、一番大切なものへ帰着させ、シンプルにまとめあげる。
こんな愛すべきニューヨーク映画を生み出せるのは、ウディ・アレンだけだ。
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