男と女の間に友情は成立するのか?
そんなん無理…がおれの持論…
友情を感じるくらい相手に好意を持った場合…それが自分の性的対象者(おれの場合は女性)だったら絶対に恋愛感情が芽生えてしまう…と思う。
じゃあ…ジンコのことは好きか?
そう言われると好きだけど…これは友情だ…彼女は【映画友達】で恋愛感情はないよ…そう答えるだろう。
矛盾してる…
ジンコ…本名は仁子(きみこ)…でもこの字を見た瞬間…おれは「ジンコ」と命名した…
もうずいぶん長い付き合いになるが…
とにかく最初から映画の話しかしないような友達で、今さら色っぽい話を持ち出すのもなんか変な関係になってしまった…
確か…彼氏もいるのだが、忘れた頃にどちらからともなくラインして飯を食う…毎回…映画の情報交換で盛り上がるがこれまで何の進展もなかった…
「私…引っ越すの…」
久しぶりに会った居酒屋で田楽を食べながら突然ジンコが言った…
「え?どこに」
「東北…」
「さては…男についていくんだな…」
「ま…そんなとこかな」
「寂しくなるな…」
「うん、だけど今はSNSとかあるし…」
「最近…おれ…映画友達がどんどんいなくなってるんだ…お前もいなくなるんだな…おれの将来の夢…聞いてくれる?」
ジンコはゲラゲラ笑いながら…
「あのさ…もういつ死ぬか?ってくらい歳食ってるくせに…将来なんになろうかな?とか言ってんのアンタぐらいだよ」
「うるせぇ…おれは将来…映画カフェみたいな店をやりたいんだ…映画のポスターいっぱい飾って…客がみんな映画の話で盛り上がるの…おれがそこのマスターなら映画友達に不自由しないだろ?」
「いいねぇ!もしそれほんとにやるときは連絡して…一口乗るよ…映画にちなんだ飲み物とか食事出すんだ?」
「そう!絶対出したいのが『ムーンライト』のシェフズ・スペシャルとか『アベンジャーズ』のケバブとか…」
「パルプフィクションでユマ・サーマンが飲んだミルクセーキも!」
「いいねぇ…有線で映画音楽流して…内装はもう決めてあるんだ」
「どんなの?」
「バグダッド・カフェだよ」
「閉店の合図にコーリングユー流すんだ…」
「いいだろ?」
「バグダッド・カフェ」
1987年、西ドイツ映画…当時オシャレな人たちの間で大ブームになって、オシャレじゃないおれたちも映画館に駆けつけました!
「プレデター」よりかこっちのほうが女の子を誘いやすかった!
ま、内容はともかく色彩が鮮烈だった…
この映画の舞台になる荒野のモーテル…そこに出てくるカフェ…
とにかく可愛い色合いでもし自分の映画カフェを作れるならこの内装を真似したいとおれはずっと思っていた…
ジンコが町を出る日…
おれは駅に向かった…
ラインのやりとりでジンコの乗る列車のホームに上がった…
「来てくれたんだ」
「ひま…でね」
「映画カフェ…絶対作ってね」
「どうかな…金ないし…生きてるうちに作れればいいけど」
「死んだらあと継いで私が作ってあげるよ…バグダッド・カフェ」
あっという間に出発の時間になりジンコは列車に乗った…
「元気でな…彼氏ともうまくやれよ」
「ふぇ…」
ジンコの口がへの字になり…泣き出しそうな顔になった…
「ば…バカ…泣くなよ…お前はステーションのいしだあゆみかよ!」
ぶしゅぅ…ドアが閉まる…
ガラス越しにジンコは泣き顔と笑顔をまぜこぜにしながら敬礼をした。
まじで健さんの「駅・station」のいしだあゆみだ…
おれは苦笑しながら片手を上げた…
ジンコを乗せた列車は北に向かってホームからゆっくりと滑り出して行った…