平野レミゼラブル

シベリア超特急の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

シベリア超特急(1996年製作の映画)
1.2
【伝説発車………!!ハルオの揺れない超特急】
私には毎年GWになるとクソ邦画を観るという習慣がありまして、一昨年は『幻の湖』、昨年は『デビルマン』を観ましたので、今年はこの『シベリア超特急』を観ることにします。これは大型連休の貴重な時間を、わざわざクソ邦画に費やすという「縛り」であり、この説明は術式開示による呪力の底上げです。『呪術廻戦』の映画、鬼滅ばりにヒットしてもらいたいですね。
んで、このクソ邦画四天王筆頭格【要出典】である本作。「いや~映画って本当に良いものですね~」でお馴染みな映画評論家の水野晴郎氏が、MIKE MIZNOとして監督・製作・脚本・主演を兼任したワケですが、観た人のほとんどが「いや~この映画って本当に酷いものですね~」と語ったというとてつもない作品となっています。過去にこれに果敢にも挑戦していった呪術師達が全員寝たと証言しており、その睡眠導入率は『2001年宇宙の旅』に匹敵【要出典】するほど。
もはや特級呪物とでも言うべき存在ですが、はてさてどんな代物なのか。遂にこの目で確かめることにしましたが……





……ごめん。ナメてた。これはちょっと俺の手に負えない代物だ……
いやね、アルコールの力借りながら観たにも関わらず眠りはしなかったんだけど、それにしたって途中意識がオチてたんじゃないかってくらいに間が落丁したような展開が続き、合間に入るトンチキなやり取りや水野御大の棒読みに盛大に気が抜けて、曲がりなりにもミステリーなのにセオリーが一切無視された推理劇に崩れ落ち、最後にあんまりにあんまりなどんでん返しとメッセージを突きつけられて放心しました。
これは……何………?

観た人が全員寝たというより、寝たんじゃないかと思うほどに何も残らないが正しい気がしますね、これ。
だって、列車内から人が忽然と消えたり、殺されたりして騒ぎになって…って流れは『バルカン超特急』や『オリエント急行殺人事件』そのままなのに、その消えたり、殺されたり、騒ぎになったりの部分が全然目立ってないせいで事件が起きた気がしないんですもん。こんなに盛り上がらず、あっさりしたサスペンスはじめて見た……

なんでこんなに盛り上がらないのかっていうと、確実に探偵役である水野御大演じる山下奉文陸軍大将に原因があります。もうね、第一声を聞いた時から脱力しますからね。

「ボルシチも、けっこう美味かった、ぞ」

と…とんでもない棒読み……!
いや、そりゃそれまで演技経験のないド素人ではあるんでしょうが、それにしたって全然覇気もなければ抑揚のない棒読みっぷりには唖然。冒頭で史実の山下大将の解説をするアナウンス部分はまだマシだったのに、いざ姿を現したら万事が万事この調子なんで参ります。
山下閣下は常に盟友ぼんちゃんこと西田和晃演じる佐伯大尉や、1作目以降姿を消した書記官の青山といった部下に調査を任せる安楽椅子探偵役を担っているんですが、それはいかにして水野御大に口を開かせないかって部分に注力したからでしょうね。それにしたって、口を開いてない時も終始ボーッとしたり、所在なさげにのっそのっそ現れたりする水野御大の姿には気が削がれます。ぼんちゃんがそのフォローの為に「閣下、眠ってらっしゃる?」と言いますが、まあ確実に水野御大は寝てらっしゃいます。
また、推理の時には水野御大自らが棒読み長台詞でベラベラ喋り通されるので、結局山下閣下の出番を減らしたところで棒読みっぷりが気になることには変わらなかったり。ダメじゃん。

実は水野御大よりは大分マシとはいえ、ぼんちゃんや車掌役の占野しげるといった他の水野ファミリーの演技も大分危ういです。むしろ、本作は他に誰かもわからん外国人俳優が大勢なため、まともな演技を望めるのが青山書記官役の菊池孝典とゲストヒロインのかたせ梨乃ねぇしかいないという有り様です。
なので、この時点で映画の醍醐味である俳優同士の演技合戦が楽しめないんですね。人間の愛憎渦巻く殺人事件を題材にしてこれってのはあんまりじゃないだろうか。


映画の脚本もガタガタすぎてヤバイです。
そもそも、殺人事件が起きている感じが全くないままに続く時点で脚本として致命的であり、そのため伏線やトリックの痕跡すらないため謎解きが出来ない状態なんですが、安楽椅子探偵となった山下大将は何故か事件が起きていることやトリックをピッタリ言い当てます。もはやエスパーの領域です。トリックの証拠も無から生えてきています。
推理部分ですらこの調子なんですが、本作はそこに第三者による山下閣下暗殺計画まで絡めて事態を複雑化させるので、肝心の謎解き部分が余計に意味不明になってしまっているという……ただでさえ巧いとは言えない脚本に余計なものを足すんじゃあないよ……!
まあ、列車に乗って数日が経ったはずなのに乗車前の非礼に対して「先ほどは失礼」とか挨拶したり、車掌が殺されているにも関わらず列車が走り続けている時点で、脚本の破綻は目に見えてはいたんですが……

映画はエンターテイメントだと語る水野御大の言説に則り、アクションも見せてくれますがこれも酷い。
一番のアクションはぼんちゃんが鍵のかかった客室に入るために、隣の空いた客室の窓から鍵縄をかけて列車外から突入するという車外ロープアクションなんですが「そんな危ないことせずに扉を蹴破ればいいだろ!!」ってツッコミたくなる。
また、本作は移動中の列車が舞台にも関わらず、窓の外は終始真っ暗で風景は一切映らず、画面も揺れたりしないため全然列車が走っている感じがしません。なので、一連のロープアクションに緊迫感なんてあるわけがない。髪も服も揺れず、申し訳程度に煙が横に流れているだけの映像じゃ、盛り上がるアクションも盛り上がるわけがありません。しかも、ロープアクションはあと1回同じようにやるという具合にくどいです。
冒頭で乗客を紹介する以外に意味のない改札シーンに、乗客と車掌以外の人がいない時点でセット感は漂っていましたが、この揺れない列車のせいで終始安っぽさまで感じられます。そこに、稚拙な演出も入るため安っぽさは乗算されるという……


極めつけは衝撃的なオチ。山下閣下の棒読み&推理になってない推理を延々と聞かされた挙句、「アイガッタプルーフ!(これが証拠だ!)」のキメ台詞(棒&謎エコー)も発せられ、これでやっと物語が終わる……って思ったところで突如カメラ目線で棒立ち状態となる山下閣下。

「戦争はこんな悲劇まで起こしてしまう。戦争は絶対にやめなければならん(棒)」

直接的メッセージ性……!!
いや、いやいやいや、確かに戦争故の犯罪が列車内で巻き起こってはいたけど、そんな全く捻りのないメッセージを直接的に!?なんでだよ!!なんで、こうなるんだよ!!!!

なお、この後は山下閣下らのその後がナレーションされて終わるんですが、シベ超にはいくつかバージョンがあって、僕が借りた「劇場公開完全版」にはエンドロール後のどんでん返しも収録されていました。
DVD冒頭に「決してこのどんでん返しは言わないでください」という、これまたヒッチコックオマージュの注意文があったけど、どうせ宅配レンタル使わなきゃ観ることができなかったくらいの作品だし言っちゃっていいだろ。大体、完全版も何も元が不完全じゃねーか!一応ネタバレ注意とだけは言っておきます。





で、そのどんでん返しなんですが、これが本当に酷い。この『シベリア超特急』の作品自体がフィクションで、劇中人物達が役者に戻る謂わば楽屋裏オチなんですよ。映画が終わったのに外国人たちを役名で呼んでる不自然さはどうにかならなかったのかとは思うんですが……
そして、そんなクランクアップの和気藹々とした雰囲気の中、梨乃ねぇが突如吐血して死亡するという殺人事件が発生。狼狽える他の役者を後目に、水野御大の推理が冴え渡り(案の定推理にはなっていない)車掌役の占野氏が犯人と指摘。やはり戦時中の因縁が動機であると語った氏もまた服毒自殺してしまいます。
そして、再び放たれる「戦争はこんな悲劇を起こしてしまう」の迷言。御大、それ2度目です。

これが1度目のどんでん返し。ハイ、この完全版、どんでん返しが2度あります。
続いて映るのが、外国人役者達が「日本人もまだ戦争の傷痕を抱えているのね…」としんみりムードな楽屋群像。そんな彼らに反して、我らがハルオ・ミズノはニコニコ顔でワインを開けての打ち上げムード。オイオイ、人が死んでんのやぞ!と思ったら、死んだはずの梨乃ねぇも占野氏も同じように打ち上げの席についているという。
なんと、この一連の殺人事件は、水野御大が外国人の方々に「戦争が日本人の心にどれだけの傷痕をつけたのか」を知ってもらう為に行った狂言殺人だったのです。


………何を言っているんだ?お前は?????

えーと、いや、なんで?なんで、これで戦争の悲劇が伝わると思ったんだ?
いや、伝わったには伝わったみたいだが、それはそれで外国人キャスト達にあまりに失礼すぎやしないだろうか???
なんかこう、真面目にツッコミ入れてる時点で大間違いな気はするんですが、このオチを真面目に作っているのも大間違いなんでツッコまざるを得ないよ!!
なお、この2度のどんでん返しの後には水野御大によるコメンタリーも始まるんですが、あろうことかこのオチを『シックス・センス』と並べている(正確にはファンから「この作品観たおかげで『シックス・センス』のオチがわかりました!」って言われたエピソードを紹介した。それもどうかと思う)時点で、「嘘だろ…」と頭を抱えました。その後もどんでん返しの為に仕掛けた伏線やこれをわざわざ挿入した意図をベラベラ喋り通しますが、冒頭に挿入した意味不明な映像を伏線とは言わねーし、そんな意図入れる意味もないからな!!


えー…何というか、一昨年観た『幻の湖』が徹頭徹尾破綻した電波脚本、昨年観た『デビルマン』があまりに稚拙すぎる演技がクソであるならば、今年の『シベリア超特急』はそのハイブリッドです。
クソ邦画の中でも伝説級と言われる所以がわかりましたよ…だってマジで脚本面でも演技面でも演出面でもあらゆる部分がクソなんだもの……本作に比べれば『幻の湖』は意味不明さを笑って楽しむ余裕はあったし、『デビルマン』の映像はダイナミックでした。本当に駄目だ、これはマジに太刀打ちできないホンモノだ……

なんだろうな…水野御大の戦争反対のスタンスと映画愛って、巨匠・大林宣彦監督にも負けないくらいのモノがある筈なのに、なんでこんなにも差がついちゃったんだろうな……大林監督だって作中で信じられないくらいの直喩で「戦争はいけない!」ってメッセージを挿入するし、チャチと思えるくらいに前衛的な演出を入れていたのにな……大林監督作は「独特すぎるが確かなパワーがある傑作」って評せちゃうんだよな……

そう考えると『シベリア超特急』、紙一重で傑作に成り損ねたクソ映画なのかもしれません。
そもそも『シベリア超特急』、あまりにあまりな内容から、カルト的な人気を博している時点でクソ映画の中でも確かな風格は放っているんですよ。「映画を多く観ている人が、傑作を撮るとは限らない」とまで評されているにも関わらず、本作と水野御大をどこか愛してしまう茶目っ気があると言えるのかもしれない。もしかしたら…あるいは……万に一つ………

まあ『シベリア超特急』には、この後も順調にシリーズを撮り続けて『5』までナンバリングを重ねている実績もありますからね。
これは、かつて黒澤作品の脚本も努めた名脚本家・橋本忍の脚本家生命を完全に奪ったとされる『幻の湖』や、蛇蝎の如く嫌われている『デビルマン』には出来なかった偉業ですよ!日本を代表するに相応しい、カルトクソ映画なだけはありますね!!

そして今、僕の目の前には2~5までの『シベ超』のDVDが並んでいるんですよね!!


勘弁してくれないだろうか…………