緑青

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアの緑青のレビュー・感想・評価

4.2
好きなんだろうなと思って観て、やっぱり好きだった。エンドロール直前まで堪えてたのにエンドロールの途中で声出して泣いた。久々に、言葉にしたら全部逃してしまう気がする映画を観た。私がいつも創作物に願っているものがそこに満ちていて良かった。人生はアップでは悲劇で、ルーズでは喜劇です。

もし私が明日死ぬとして、あんな風に生きられるのかなあ。あのふたりだって、ふたりじゃなきゃきっと無理だったんだろうけれど、それでも「怖くないよ」ってだれかに言えるだろうか。初めは強がりだったとしても、それが本当になるまで海を目指せるだろうか。
それにしても、Knockin’ on heaven’s doorってタイトルがいい。ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア……。シンプルであることは力強さなんだなと思わせる。シンプルに映像としても非常に好みだった、カットの繋ぎ方とか色味とか音の使い方とか。映像の質感が世界観に直結している。
好きなシーンについて。道中、海から遥かに遠い路端の草むらで、ふたりで揃って空を見上げたカットがすごくよかった。あと街中の「海」を二人で眺めて夢見るところ。ああいうシーンがあるからラストが成立するのだなと思う。先の見えない人生の中で、ああいう瞬間には覚えがあるから。
あと、ふたりでぎゅって手を握る瞬間。もちろんあんなところで死にたくないと思っていただろうけど、でもふたり一緒だからそれはそれでよかったと思えたかもしれないななんて思った。
そういえば2人の素性って明らかじゃないけれど、2人もお互いによく知らないんだろうなと思わせる。職業も趣味も家族構成も年齢すらよくわからなくて、それでもあんなに友だちなのが本当に良い。
地味にギャング二人組のスピンオフが観たい。
これジャンルが「コメディ」ってなっているのだが、確かにそうだと思う。

ただまあこれは、好きな映画だけれども、完全にシスヘテロ男性の夢の映画だなとは思った。
「区切りが目前に迫っていて、その前に自由を謳歌する」という構造で観ると、例えば「ハングオーバー」も同じ種の映画で(比べてすみません)、やっぱりこれもメインキャラクターを「女性」に置き換えるとまだ現代では楽しい映画としては成り立たない感じがする。こういう非対称性みたいなものは、見つけるたびに良し悪しというより「あぁ、そうか」と自分の世界観の偏りを認識できた気がして興味深い。親友二人のロードムービーという括りだと「テルマ&ルイーズ」を思い出したんですけど、ふたりは健康そのものの身体で楽しむために旅に出たのに、「女」であったというだけで「自由」のためにあのラストを迎えることになるから、やっぱり非対称なんだな。悪い女の子二人ならどこへでもいけるのよと言われても、あんなふうに自由なままで天国の門を叩けるなら、男の子二人が羨ましい。

人生であと何度かは見るだろうと思う。好きです。
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