ちろる

ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかたのちろるのレビュー・感想・評価

3.7
エイドリアン・シェリーの初監督作品にして遺作となってしまった作品。
とても女性賛歌に満ちた意欲作であった故に、この後も色々と発表したかっただろうに、切ない。
田舎のダイナーで働くジェンナ(ケリー・ラッセル)はパイ作りの天才。
サディスティックな旦那に嫌気がさす毎日 の生活を素敵なパイのレシピを考えて心を紛らわしている。
沢山のパイ作りの様子が出てきて、どれも美味しそうで、かなりの飯テロムービーなのですが、更にこのジェンナの考えるパイのタイトルがユニーク。
大嫌いな旦那の赤ちゃんを身ごもってしまったために、妄想するレシピは
“アールの赤ちゃんなんていらないパイ” とか、夜泣きで人生が崩壊するパイ”とか・・・
どう見ても美味しそうなのにこの後も物騒なタイトルが連なります。
ふつうのほっこりラブコメかと思いきや、この作品そうでもなくなかなかシニカルな笑いに包まれてる作品。

ジェンナは基本とても心が優しくて素敵な女性として描かれてますが産婦人科医と不倫に走ります。
そんでもってウエイトレスの女友達もそれぞれ結構自己矛盾した行動や恋愛に走ります。

不倫はダメ!とか、逆に不倫でも愛し合えばいいじゃない!とか子ども欲しくない!とか、ストーカーはキモい!むり!とかなんか通り一遍な考え方でなくて、
物凄く嫌いだったものが大丈夫になったり、絶対むりだと思ってた事が簡単に出来たりする、女性独自のめんどくさい面とか不安定さを良く表してるなーっていう印象。
DV気味のアールについては、威圧的なものの殴ってボコボコにしてるシーンもなく、多分男性にとってはえ?これがDV?ってなる人も居るかもしれませんが、(それ危険)女性には十分に伝わるめちゃくちゃ、胸糞悪い形の束縛感で描かれてて、この旦那のモラハラ感もリアルで実に上手いです。
多分これ、女受けするけど、男受けしない作品かも。
そうした複雑な人間描写を描きつつ展開はテンポ良く。
次にどうなるか分からないので楽しませてもらえました。
レトロな感じのダイナーの制服とか田舎の町の風景がダイナーとマッチして全体の雰囲気も好き!
エイドリアン・シェリー演じるドーンの素朴な可愛らしさ、そしてシェリル・ハインズ演じるベッキーの適度なピッチ感もバッチリハマっていて、大人女子の友情ものとしても素晴らしい作品でした。
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