ひこくろ

私の中のあなたのひこくろのレビュー・感想・評価

私の中のあなた(2009年製作の映画)
4.4
あらすじだけ読むと、ドナーとして生まれた少女が自分の存在意義を主張する、みたいに見えるが、印象はかなり違う。
そもそも、出てくる人の誰一人にも悪意がない。
白血病のケイトのためにアナを生むことを決意する両親も、アナをドナーとしてだけ見ているわけではなく、きちんと愛している。
病気と闘うケイトも家族のことを思い、自分のできるかぎりで必死に生きている。
長男のジェシーは、自己主張することなく、静かにそっとケイトに寄り添う。
アナもケイトのことが大好きで、恨む気持ちなどどこにもない。

じゃあなぜアナは両親を訴えたのか。
ここをキーワードに、映画は彼らがどんなふうにこれまで過ごしてきたかを丁寧に描いていく。
時に苦しみ、時に悩み、時に恋もしたケイトの過去が、家族の姿を浮き彫りにする。
そこにあるのは、やさしさ以外の何物でもない。
それは裁判が始まっても変わらない。彼らはいがみあったり憎しみあったりすることなく、やはり以前と同じ温かい家族のまま過ごすのだ。

そして、その時になってようやく、これが大切な人の死を受け入れる、受け止める話なんだと気づかされる。
人の死を受け止めることは、人の生を受け止めることでもあるのだと気づかされる。
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