ardant

私の中のあなたのardantのレビュー・感想・評価

私の中のあなた(2009年製作の映画)
4.3
どうしようもなくやるせない、桃井かおり主演の『生きてみたいもう一度 新宿バス放火事件』(85,恩地日出夫)を観た直後に、この作品をみて、妙な感慨に浸ってしまった。
片や、安っぽいヒューマーニズムなんか、どこかに吹っ飛んでしまっていく、事件で全身80%のやけどを負い、自分をそのようにした被疑者の気持ちさえ推し量ってしまう一人の女性のその後を描いた物語。片や、家族を救うために体外受精でわざわざ一人の子供をつくってしまう家族のヒューマニズムに溢れた物語。

こんな映画をみることなど、少し前なら考えることなどできなかった。私の気持ちを変えたのは、ひたむきに生きるシングルマザーを描いた坂元裕二脚本の『Woman』(13,日本テレビ)だった。本作品と同様に白血病の移植が後半で重要なモチーフとなるドラマだ。

本作品は、「白血病の姉を救うために、この世に生を受けた少女」の回想の物語である。その少女が、突然、「姉のためじゃなく、自分のために生きたい」と実の母を、裁判に訴えることから物語は始まる。何故?

米映画らしく、弁護士に介助犬を必要とするてんかんを持病とする人物を当てるとか、半年前に酒酔い運転の車に最愛の娘を殺された母を裁判官に当てるなど、芸は細かい。

物語の詳細は観ていただくことで。

結局、キャメロン・ディアス演じる母は、子供を救うために、体外受精で子供作ろうとした時点で、「子供を生かす」ことが目的化してしまった。だから、生かされる側の思いを、感じる余裕などなくなってしまっていた。それを、子供たちに教えられることになる。

映画は、弁護士が、裁判の結果を告げるために訪れるシーンで終わる。結果になんと書かれていようとこの時点では関係なくなっていた。私はこの場面でもう一つ何かがあるのじゃないかと思った。そうすれば、もっと深い物語になったと思うから。しかし、惜しいことに、何もなかった。

もし、家族がいるならば、ちょっと照れくさいが、一緒に観るのがいい。家族のいない私にも、家族というものがどういうものか少しはわかったような気がする。
いや、一緒に観ようと言った時に、一緒に観る家族であればそんなことは必要ないのかもしれない。それだけで、あなた達家族はしっかりとつながっていることがわかるのだから。

そして、冒頭述べた作品と本作品に共通するのは、きちんと観た後に感じる心地よい「救い」と「希望」の気持ちだった。ちょっと、宗教ぽいが。
ardant

ardant