ねこたす

書を捨てよ町へ出ようのねこたすのレビュー・感想・評価

書を捨てよ町へ出よう(1971年製作の映画)
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寺山の映画について語るのは荷が重いよ…。

いきなりこちらに向かって語りかける青年。暗闇に座って映画なんかみてどうしたんだ、と。誰も俺の名前なんか知らないだろうと。第四の壁を打ち破ろうとする。

この映画ぶっ飛んでいるのだが、この感じはなんだかホドロフスキーに似ていると感じた。こちらの方が俗世的だけど。
場面によってはフィルムが着色されており、緑、紫、青と視覚を刺激する。

この映画、寺山修司という男の半自伝的な作品のようだ。主人公英明は青森生まれ。東京新宿の都電沿線に住む。
寺山も青森生まれであり、戸塚には彼が通った早稲田大学がある。
特に家族に母がいないのが象徴的だ。寺山と言えば、母の話題が出るのものだ。その代り父にとっての母、祖母についての語られる。

撮影もまた独特なのである。ドキュメンタリーのように長回しで距離を撮った撮影もあれば、POVのような英明の主観をカメラで表現したものもある。街中で男性器を模したサンドバックをぶら下げ、叩いてみろと人々に語り掛ける少女。明らかに一般人に絡んでいる。その上警察にまで絡んでいくのだから、今考えると恐ろしい。
反対に挿入されるロック調(かなりディストーションのきいた)の曲に合わせて、かなりカットが刻まれた映像が流れる。こちらはMV風なのである。その曲の半数ぐらいは、寺山が作詞した曲が使われている。

劇中提示される新家族という概念も、日本から飛び出そうとした朝鮮人も、血縁や地縁に苦しんだ寺山の心の叫びだろうか。
だから、英明も人力飛行機をひたすら飛ばそうとする。

ぶつぶつと何を言っているか聞き取れ合いような独白の仕方は、まるで押井節のようだ。

「明かりをつけてください」
暗闇の中でしか存在しない映画の世界。製作日数が28日ならば、28日の世界、国家、家族、東京なのだ。
サヨナラの一言で映画は終わり、登場人物の顔が一人一人映される。こちらはエヴァを思い出す。庵野も影響を受けていたのだろうか。

なんだかさっぱりな映画だけれども、70年代当時の雰囲気が垣間見られて楽しかった。当時は道路がすごい汚かったんだなあ。
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