タケオ

激突!のタケオのレビュー・感想・評価

激突!(1971年製作の映画)
4.0
 荒野のハイウェイを運転していたセールスマンの主人公が、謎の巨大トレーラーから執拗に追い回される姿を描いたノンストップ・スリラーエンターテインメント。「テレビ映画」として制作された作品ではあるが、なかなか「劇映画」の監督を任せてもらえないことに苛立ちを覚えていた若き日のスピルバーグが、自らの才能を証明するために持てる技術と情熱の全てを注ぎ込んだ力作であり、とても「テレビ映画」とは思えないような圧倒的なパワーを感じさせる強烈な1本である。
 本作の大きな特徴のひとつとして、巨大トレーラーの運転手の姿が最後まで一切映らないという点が挙げられる。運転手が見えない巨大トレーラーはまるで怪物。そんな怪物が執拗に主人公に襲いかかってくる様は、まるで一種の「モンスター映画」のようだ。また、トレーラーのことを怪物として描いたことで寓話性が高められ、誰もが楽しめるエンターテインメント作品でありつつも、同時に「暴力」という深淵なテーマを描出することに成功しているのも本作の凄みである。ギリギリまで追い詰められた主人公は、逃げ回っているだけでは殺されてしまうことに気がつく。このまま一方的に殺されてたまるか!主人公が決意したその瞬間、ついに『激突(Duel)』が幕を開ける。クライマックスで繰り広げられるカーチェイスは、若き日のスピルバーグの豪腕も冴え渡り、手に汗握る素晴らしい出来栄えとなっているが、その結末は決して清々しいものではない。なんとか生き残れたものの、荒野に1人取り残された主人公は途方に暮れる。「俺は一体何をしてしまったんだ——?」と。『わらの犬』(71年)を彷彿とさせるような苦々しいラストだ。
 理不尽極まる世界を前に、時に人間は暴力性を発揮せざるを得なくなる時がある。しかし、一度暴力の世界へ踏み込んだが最後、二度と元の世界には戻れない。『カラーパープル』(85年)『シンドラーのリスト』(94年)『プライベート・ライアン』(98年)『ミュンヘン』(05年)などなど、スピルバーグは世に溢れる「理不尽」や「暴力」を映画に落とし込み続けており、それはすなわち、スピルバーグ自身が抱える「恐怖」でもある。もちろん、本作とてその例外ではない。世に溢れる「恐怖」のエンターテインメント化こそが、スピルバーグのライフワークなのである。
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