netfilms

激突!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

激突!(1971年製作の映画)
4.3
 冒頭、中産階級のなんの変哲もない家に併設されたガレージが開き、クライスラー製の「プリムス・ヴァリアント」が顔を出すと、前方にのどかな運転ショットがモンタージュされる。彼はいつものように都会から田舎へと足を踏み入れると、彼の前に一台のタンクローリーが現れる。最初は重量もあるタンクローリーに道を阻まれたため、些細な気持ちで追い越しをすると、突如運転手の態度が豹変する。タンク・ローリーは轟音をたてて抜きかえすと、デビッドの車すれすれにまわり込み、再び前方をふさいだ。この無鉄砲な運転ぶりに腹を立てたデビッドはタンク・ローリーを追い抜き、スピードをあげてタンク・ローリーとの距離をできるだけあけようとするのだが、その大型車両は彼の後ろについて執拗に追い回す。このピータービルト281の運転手の顔がまったく見えないことが、主人公と観客の恐怖心を一層掻き立てる。彼がなぜどんな目的で自分の車を威嚇するのか?その理由が見えないまま、彼の車は勝手にターゲットにされてしまうのである。スピルバーグの映画では初めから、バック・ミラー越しに危機は起こる。

 中盤入ったドライブ・インでの主人公の独白による心情描写は、スピルバーグが敬愛してやまない黒澤明の『野良犬』の影響だろう。トイレで気を静めたデビッドが、駐車場に停車したタンク・ローリーをうっかり目にした時の衝撃は計り知れない。運転手の顔は判らなかったが、疑心暗鬼に陥った彼は、こちらを向いてニヤニヤ笑っている男に食ってかかるが逆に殴られる羽目になる。恐怖の持続と判断力の低下がじわりと効いてきて、それを煽るようなビリー・ゴールデンバーグによる不協和音もサスペンスフルな演出を増幅させる。ぬかるんだ道に車輪をとられたスクール・バス、蛇とクモを陳列した殺風景なガソリン・スタンドではもう既に何かが起こる雰囲気に溢れ、そこで起きるサスペンスフルな暴挙は何度観ても怖い。この一連のショットのつなぎでは明らかにぶつかってしまうはずだが、どういうわけか災難を免れた主人公はクライマックスの恐怖のカー・チェイスへとおびきだされるのである。思えば今作において、カマを掘られるような軽い衝突はあっても、車と車が「激突」する瞬間は一度も出て来ない。それが最後の瞬間には文字通り「激突」するのである。物語は非常にシンプルな構造を持ちながら、日常に潜む恐怖の瞬間を克明に記録する。この単純な恐怖を世界の映画ファンは固唾を飲んで見守った。低予算、限られた日数でこれだけの作品を作った若き日のスピルパーグの才能にあらためて驚愕する作品であり、70年代屈指の傑作である。
netfilms

netfilms