スピルバーグ初期の作品で1971年に創られたロードムービー型サスペンスの傑作である。
何気ない日常に潜む魔の刻を描いたものだが、現実にも十分起こり得るし、いやそれ以上のことが起こっているのかもしれない。
主役は当時TVドラマで馬に跨った警官「刑部マグロード」で売り出していたデニス・ウィーバーである。
何の変哲もないサラリーマンが商用の為、車で遠乗りをする。
道すがら古い大きなディーゼルタンクローリーと出くわす。
クラクションを鳴らして追い抜いたところからこのトラックとの抜きつ抜かれつの道行きが始まる。
次第にエスカレートしていく彼ら、だがタンクローリーの運転手の顔は一切出さない為、あたかもタンクローリーが生き物みたいに追っかけて来るような錯覚に陥る。
デニス・ウィーバーことマンは次第にこいつは普通じゃない奴だと感じ腰が引け始める。
途中にあるドライブインに逃げ込むシークエンスが素晴らしい。
ドライブインでやり過ごそうとしトイレの後、ふと駐車場に目をやると、かのタンクローリーが止まっているではないか。
すると店の中にいる誰かが運転手のはずだ。
心の声が「すまなかった。もうやめてくれ」と頼もうかしらとささやく。にしても誰なんだ。
カウンターにはカーボーイ風のジーンズにブーツを履いた奴らが数人座ってチラチラとマンの方に目を向けて来る。
確か途中のガソリンスタンドでタイヤを蹴る足元を見た時、踵がスレたウェスタンブーツを履いていたことを思い出し、見渡すと怪しい奴がいる。
近付いて「頼むからもうやめてくれ」と懇願すれども人間違い。
次に怪しいと思った奴も違う。
いい加減店の客達を怒られせてしまうが、そうこうしている内にタンクローリーのエンジンがかかり発進し始める。マンは店を飛び出し追っかけたが離されるだけであった。
この犯人探し手法は黒澤明の「野良犬」から来ている。
駅の待合室に逃げ込んだ犯人の木村功が、白ズボンで泥濘を走って来た後だから靴は泥で汚れ、ズボンに羽根が上がっているはずだとふんだ三船刑事が待合室に入り込み足元だけを見渡していくシークエンスがある。
ハラハラドキドキ感とサスペンス性、謎解きも絡んで見事である。
そんなやりとりの末、最後にはやるかやられるかの殺し合いにまで発展する。そしてラストはゴジラのような雄叫びをあげて‥。
16日間で作り上げたロードムービーであるが金はかかっていない。二台の車とガソリン代位のものでこんな面白い映画が撮れるという見本みたいな作品である。