Kota

早春のKotaのレビュー・感想・評価

早春(1970年製作の映画)
4.9
“今夜、僕は死ぬかもしれない。”

とんでもない映画に出会ってしまった。今や映画館はSF大作が占め、他はスマホでスキマ時間にちょっとずつ観るという便利なようで虚しい時代になってしまったけど、この映画はそれを許さない。製作者や役者のメッセージやこだわりが全てのシーンから溢れ出して一時も目が離せない。

この映画を観終わった後には青春時代を懐かしむ人もいるだろうし、落ちるほどの恋をした事を思い出す人もいるだろうし、ただその全てを羨む人もいるだろう。自分の場合だと終始胸がドキドキしてそれと同時に痛かった。何か自分の過去と重ねていたのか、それとも過去にやってこなかったことを悔やんだのか。

美しすぎる主演の二人や、70年代のファッション、文化、音楽、そしていつの時代も変わらない恋に落ちた時の感動や嫉妬、青春時代の輝きと痛さ、その全てを真空パックに包んだような作品で50年前の物だと思えない程のセンス。構図や色合いが素晴らしいのは言うまでもなく、まさに一時間半の魔法で、映画とはこれだと思い出させてくれる。

タイトルの“Deep End“はプールの底や一番深い場所という意味。まさにこの映画はハッピーでもバッドでもなく“ディープエンド”に向かって沈んでいき、私たちの心の中に確かにあるものを窒息させる。今までボーイミーツガールの恋愛映画はあまり好みじゃなくて、おススメを聞かれた時には“バッファロー66”くらいしか言えなかったのだけど、次からはこの映画も必ず加えよう。あぁ今夜死んでもいいかもしれない…。
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