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夏物語のnetfilmsのレビュー・感想・評価

夏物語(1996年製作の映画)
4.1
 数学の修士号を取得したガスパール(メルヴィル・プポー)は恋人のレナに誘われ、彼女より一足先にヴァカンスのために、アコースティック・ギターを担いでディナールの地へとやって来る。うだるような暑さの中、波を眺めるもその日は海に入らず、専ら部屋で曲作りに励むのだ。夏と言えば海か山かプールかと言ったのはスチャだが、フランスの若者にとっては避暑地でクールな出会いを夢想する。数日後、海でガスパールはクレープ専門店のウェイターのマルゴ(アマンダ・ラングレ)に話し掛けられる。彼女は人類学の博士課程で、ブルターニュの民族音楽を調査しながら、休みのあいだ叔母の店で働いていた。恋人は考古学者で、海外にいるという。ガスパールは恋人レナ(オーレリア・ノラン)と落ち合ってウェッサン島に旅行するはずが、連絡のないまま約束の日から一週間経っても彼女は一向に現れる様子がない。マルゴと出会って数日後、ガスパールはもう一人の美女ソレーヌ(グウェナエル・シモン)と親しくなり、サン・マロに住む彼女の叔父(アラン・ガラ)夫婦の家にも泊まるほど親密な仲に。彼はレナとよく似たソレーヌに自作の曲をプレゼントし、彼女と一緒にウェッサン島に行く約束をする。ところがそこへスペインに行っていたはずレナが彼の前に突然姿を現すから、ガスパールはただただ困惑するのだ。

 90年代恋愛映画の傑作『冬物語』と対をなす物語で、『冬物語』はヒロインを巡る男3人の悲喜劇だったのに対し、3人の魅力的な女性たちの間で揺れるガスパールの物語であり、4部作の中で唯一男性が主人公の物語だ。ヴァカンスでマルゴと運命的な出会いを果たした青年はうっかりもう1人のソレーヌとも出会い、まさに両手に花の状態で互いに惹かれ合うのだが、そこに本命のレオが現れ修羅場を迎える。『冬物語』のフェリシーが教養がないのを逆手に取り、考えるより先にまず行動の直感的な女性だったのに対し、今作のガスパールは頭は良いのだがいまいち煮え切らない。数学の修士号を取得するようなインテリで、組織には属さずミュージシャンを目指すモラトリアムな青年は、魅力的な美女たちに囲まれながらも口づけだけで、それ以上の深い関係になろうとしない。さながら今の草食系男子を20年先取りしたような男は信念がなく、右に左に彼女たちに言われるがままに流されて行く。何と言っても『海辺のポーリーヌ』で15歳だった少女ポーリーヌを演じたアマンダ・ラングレの成長に胸が熱くなる。ソレーヌやレナはどちらかと言えば気が強く、自我を押し通すような強い女性だがマルゴはガスパールに秘かに魅力を感じながらも、オブラートに包みそれとなく伝えるだけだ。『ぼくを葬る』や『わたしはロランス』で、今やフランスを代表する名優へと上り詰めたメルヴィル・プポー演じるガスパールは、3人の女性たちと恋人と友達の間を揺蕩いながら、眩いほどのひと夏の思い出を残して行く。『冬物語』のような明確な奇跡は起こらないが、ここには奇跡的な4人の若さの輝きが永遠に刻まれている。
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