Mikiyoshi1986

ダイヤルMを廻せ!のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

ダイヤルMを廻せ!(1954年製作の映画)
3.7
ハリウッド屈指の美人女優グレイス・ケリーが不慮の事故でこの世を去ってから、今日でちょうど35年が経ちます。

一介の女優からモナコ公妃へと玉の輿に乗った世紀のシンデレラ・グレイスは出演本数こそ少ないものの、
ヒッチコック作品ではその極めて気品高い美貌を我々の胸に焼きつけました。

彼女が出演した「裏窓」は特にヒッチコックの代表作として挙げられていますが、
一方で彼女にとっての代表作はこの「ダイヤルMを廻せ!」だと個人的に確信しております。
赤いドレスに身を包んだグレイスの眩さよ。

本作は元々舞台劇の映画化作品であり、既に設定や脚本が滞りなく完成されている逸品。
グレイス演じる妻マーゴの不倫をきっかけに、夫が完全犯罪を綿密に企ててゆくサスペンス劇をヒッチコックの巧みな映像構築で盛り上げます。

そして特筆すべきは、本作はサスペンスの傑作である以前に元祖NTR(寝取られ)の傑作でもあるということ。
自分を欺いた妻への「死」の復讐劇は一年以上も妻を泳がせながら、用意周到に計画してきた夫が主軸となり、物語が展開していきます。
本来同情すべき夫の猟奇的側面を提示しつつ、終始彼に焦点を当てて観客へ背徳的なスリルを味あわせる巧妙さ。
夫トニーを演じたレイ・ミランドの演技は圧巻であり、我々は次第にこの人物の危険な動向に魅了されてゆくのです。

パッケージにもなっている凶行シーンでは、身体のラインが露なネグリジェ姿のグレイス・ケリーが男に押し倒され激しく首を絞められます。
この不貞を働いた妻への死の制裁はどこか艶かしく、しかも彼女の喘ぎ声を電話越しで静かに聞く夫のシチュエーションはある種の性的倒錯を含み、
死とエロスが強烈に混ざりあったこのシーンこそ本編一番の見所であるようにも感じられるのです。

またこの絶世の美女を凶行と死刑、二度に渡って死の恐怖に陥れる一種のフェティシズムが、寝取られた夫の執念深き愛憎へと帰結する点には深く感嘆。
一方の浮気相手である推理小説家はただの噛ませ犬となっており、殺意がこの男に一切向けられていないのも"トニーの物語"としては大変重要なポイント。
そう、これぞNTRの美学。

それぞれ罪深き人間の模様を前提として完全犯罪の落とし穴へと迫ってゆく本作は、
第一にグレイスの美貌なくしては決して完成されることのない多角的な罪悪ストーリーなのです。
Mikiyoshi1986

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